光るサメの発光物質は「エサから入手」されていた
調査されたのは、「フジクジラ」という和名を持つサメです。
英名では「ブラックベリー・ランタンシャーク(学名:Etmopterus lucifer)」と呼ばれています。
全長は30センチ程度で、真っ黒なボディをしていますが、少し藤色がかっているため、この和名がついたようです。
しかし、なぜ「クジラ」と付けられたのかは分かっていません。
日本全域の海に分布していますが、普段は水深250〜860メートルの深海に住んでいるため、めったに見られません。
まとまって漁獲されることはなく、水族館で長期飼育できた例もないため、発光の仕組みや役割など、いまだに謎の多いサメです。
さらに珍しいことに、フジクジラが腹側の全体を青色に発光させられます。
一体、何のためにお腹を発光させているのでしょうか?
フジクジラが生息するのは、中深層(水深200〜1000メートル)という領域で、ここは発光生物が最も多い場所として有名です。
中深層は、海面から差し込む太陽光がギリギリ届く領域で、別名「トワイライト・ゾーン」とも呼ばれます。
ただただ海が広がる膨大な空間で、隠れる場所もない上に、太陽光でシルエットが浮き上がってしまうため、下にいる天敵から丸見えで、非常に危険な場所です。
そこで中深層の発光魚は、下腹を光らせることで自らのシルエットを消し、天敵から見えなくする方法を編み出しました。
これを「カウンターイルミネーション」と言います。
フジクジラの発光もカウンターイルミネーションの一つと考えられています。
では、フジクジラはどのように発光しているのでしょうか?
研究チームは今回、これまで「解けない謎」と言われていたフジクジラの発光物質の特定についに成功しました。
その正体は「セレンテラジン」という物質(上画像の右の化学構造)で、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩(しもむら・おさむ)博士が、オワンクラゲから見つけた物質と同じでした。
セレンテラジンは、フジクジラが餌としている発光魚の「ハダカイワシ」も使っている物質です。
そのことから、フジクジラの発光能は、捕食したハダカイワシから得たセレンテラジンから生じていると考えられます。
研究主任の大場裕一氏は「今回明らかにしたセレンテラジンという化学物質は、フジクジラが自分で作っているわけではなく、ハダカイワシなどの発光する魚類を食べ、そこから手に入れていると考えて間違いありません」と話しました。
ここから、フジクジラが発光物質を入手するメカニズムの解明も期待されます。
現段階では、魚から得たセレンテラジンが胃の消化酵素で分解されず、そのまま選択的に吸収されて腹側の発光器に輸送される、と考えられるとのこと。
セレンテラジンは、3つのアミノ酸が組み合わさったペプチド様分子であり、さらに研究を進めれば、これまで難しかった「ペプチド医薬品の経口投与」が実現できるかもしれません。