黒塗りしたのは「フェルセン伯本人」だった?
この件についての有力な仮説は、検閲者がフェルセン伯の近親者の誰かであり、一族の名声を傷つけないために、誤解を招きそうなフレーズを隠した、というものです。
しかし、チームが手紙を分析した結果、まったく別のストーリーが垣間見えてきました。
筆跡鑑定により、アントワネットが書き送った手紙の多くは、フェルセン伯自身が本物の手紙を手書きでコピーしたものだと判明したのです。
また、フェルセン伯が送った手紙のインクと、コピーされたアントワネットの手紙のインクを比較したところ、元素組成がまったく同じであることが示されています。
つまり、手紙を塗りつぶしたのはフェルセン伯本人であり、政治的に危険を招く可能性のある箇所を自ら検閲して隠したというわけです。
当時、手紙の手書きコピーは、記録を残すために一般的に行われていた習慣ですが、政治的な理由でコピーすることもあります。
ただし、フェルセン伯がアントワネットの手紙をコピーして、一部を塗りつぶした真の理由は定かでありません。
ミシュラン氏は次のように述べています。
「危機の時代には、安全を確保するために、手紙の作者や内容を特定できないようにしなければならないこともあります。
想像するにフェルセン伯は、安全な手紙を王宮の人々に見せることで、マリー・アントワネットの立場を擁護しようとしたのかもしれません」