トカゲの「再生しっぽ」を新品のように骨をもたせる
意外かもしれませんが、切れたトカゲのしっぽ再生は完璧には行われません。
実は、新たに再生されたしっぽは元々のしっぽのように骨ではなく軟骨で支えられているのです。
また再生したしっぽの色も以前とは違っているため、トカゲのしっぽが新品か再生品かを容易に判断することができます。
このような不完全な再生が行われる背景にあるのは、背腹を決める方向の喪失だと言われています。
切れる前のしっぽは背中側に骨があり腹側には軟骨があるという、明確に背腹で異なる構造をしています。
しかし再生したしっぽは背中側も腹側も、腹側の構造で作られるため、内部に骨はなく軟骨管だけが存在しています。
無理矢理ハンバーガーで例えるならば、上のパンも下のパンも、下のパンになってしまっている……という状態です。
原因は、再生時に重要な役割をする神経幹細胞(NCS)です。
トカゲのしっぽが再生するときには「再生芽」が構成されるのですが、芽に含まれる神経幹細胞(NCS)は骨と神経の形成をブロックする一方で、軟骨の成長を促進させるという不思議な性質があるのです。
結果として、新たに再生するしっぽは背側も腹側も、腹側として作られ、結果として内部は骨ではなく軟骨が形成されます。
ならばと研究者たちは、成長中の胚からとってきた神経幹細胞(NCS)を再生芽に加えてみました。
胚には成長して新品のしっぽを作る能力があると考えたからです。
しかし残念なことに結果を覆すことはできませんでした。
しっぽの断面にある再生芽はどういうわけか強烈な腹側信号を発しており、胚からとってきた神経幹細胞(NCS)も信号に押され、結果的に背側も腹側も、腹側の構造になってしまいました。
そこで今回、南カリフォルニア大学の研究者たちは、神経幹細胞(NCS)の遺伝子を操作して、腹側になるための信号に反応しないように書き換え、改めて尻尾の断面に移植しました。
すると驚くべきことに、新たに再生したしっぽは新品と同様に、ちゃんとした背腹の区別があり、背中側が骨からなる構造を持てるようになっていました。
幹細胞を用いてトカゲのしっぽの完全な再生が成し遂げたのは、今回の研究がはじめてになります。