がん細胞が免疫細胞を悪落ちさせる方法が判明! 隷属のマクロファージ
私たちの体では、1日に5000個あまりのがん細胞がうまれています。
にもかかわらず、私たちが直ぐにがんにならないのは、免疫細胞たちが発生したがん細胞を即座に殺してくれるからです。
ですが、不幸にしてがん細胞が増殖して免疫から隠れるようになると、免疫細胞は十分な攻撃力を発揮できなくなってしまいます。
さらに厄介なことに、がん細胞には、腫瘍の内部に攻め込んだマクロファージを「調教」して隷属させ、がん細胞に有利に働くように作り変えてしまいます。
本来、がん細胞と戦うはずだったマクロファージの裏切りによって、がん細胞の増殖力は勢いを増し、患者たちの生存率は低下していきます。
そこで今回、ローザンヌ大学の研究者たちは、このがん細胞が行う「調教」の仕組みを解明する試みに挑みました。
研究者たちは、マウスの体内で正義のマクロファージが悪のマクロファージへと堕ちていく過程をつぶさに観察。
論文の第一著者であるディコンザ氏も「私たちは、マクロファージに悪者になるように指示する仕組みを探索した」と述べています。
結果、腫瘍内部で生産される脂質の一種である「β‐グルコシルセラミド」が正義のマクロファージの受容体に結合することが、堕落の第一歩であると判明。
腫瘍が生産した脂質が受容体に結合すると、マクロファージは激しいストレスに見舞われます。
また激しいストレスは正義のマクロファージ内部で働く遺伝子を変化させ、悪への形質転換が起こることが示されました。
どうやら腫瘍は内部にマクロファージを堕落させるための脂質をため込み、マクロファージがやってくるのを待ち構えていたようです。
研究者たちが腫瘍の生産する堕落物質(β‐グルコシルセラミド)の生産を抑制したり、β‐グルコシルセラミドが結合するマクロファージの受容体(ミンクル)を塞いで防御した場合、マクロファージの悪落ちが回避されることが示されました。
がん細胞が免疫細胞を調教して自分の利益になるように隷属させるメカニズムが、ここまで詳細に解明されたのは、世界ではじめてです。
ですがより興味深いのは、堕落してがん細胞の手先になったマクロファージを、元のがんと闘う正義のマクロファージに戻すのに役立つ希望も、みつかった点にあります。