「上あご」と「鼻」はどうやって分かれた?
哺乳類の顔は、上あごから独立した鼻を持つことが大きな特徴です。
一方で、爬虫類や両生類では、上あごの先に直接鼻孔があります。
また、上あごに存在する三叉神経など、解剖学的な位置関係も、哺乳類と他の脊椎動物では明確に違います。
たとえば、爬虫類や両生類で上あごの先を占める三叉神経が、哺乳類では主に鼻を支配しています。
では、哺乳類は、トカゲのような顔つきをした祖先から、どうやって上あごと鼻を分岐させたのでしょうか。
「鼻」の分化プロセスが明らかに
そこで研究チームは、さまざまな動物を対象に、発生過程の比較を行いました。
マウス(哺乳類)、ハリモグラ(原始的タイプの哺乳類)、ニワトリ(鳥類)、ソメワケササクレヤモリ(爬虫類)、ニホンアカガエル(両生類)などの胚発生を、三次元モデルによって比較分析。
その結果、ニワトリ、トカゲ、カエルでは、前上顎骨(ぜんじょうがくこつ)という骨が上あごの先端部を作っていることが分かりました。
対して、マウスでは、前上顎骨が生じるはずの領域に骨が形成されず、これが突出した鼻に分化することが判明したのです。
代わりに、中上顎骨(ちゅうじょうがくこつ)という異なる位置にある骨が発生を通じて肥大し、口先を作っていました。
そして、ハリモグラはその中間を行っており、発生初期には大きな前上顎骨を持つものの、次第に中上顎骨が大きくなって、前上顎骨と置き換わっています。
鼻の分化は1億年かけてゆっくり生じた
チームはまた、遺伝子改変マウスを用いて、顔全体を作る発生原基(器官としてまだ分化していない状態)を調査。
すると、哺乳類の口先の変化は、骨の入れ替わりだけでなく、発生原基の組み変わりも反映していました。
三叉神経の分布パターンは、顔面原基の発生プロセスに従って分布していたようです。
さらに、ディメトロドンやゴルゴノプスなど、哺乳類にいたる過程の化石記録を調べたところ、哺乳類の出現とともに、口先の骨が前上顎骨から中上顎骨へと徐々に入れ替わる様子が見つかっています。
これは、先の発生原基の組み替わりが、ペルム紀〜ジュラ紀(約2億9900万年〜2億130万年前)までの約1億年かけてゆっくり起こったことを示します。
これまでの研究では、顔を作る発生過程は、あごを持つ脊椎動物において画一的であると考えられていました。
しかし、本研究の成果から、哺乳類の祖先にあった制約が徐々に破られ、結果として、上あごから鼻が分化したことが明らかになりました。
この革新的な変化は、哺乳類に、嗅覚の劇的な発達などをもたらしたと予想できます。
研究チームは、今回の結果について、「哺乳類の進化的起源を探る多くの研究の基盤となるとともに、顔面の解剖学的構造の位置関係や、その発生についてのこれまでの教科書的知見を書き換えるものです」と述べています。