母親の養育により「ストレス耐性」が高まる
本研究では、成長後のストレス耐性の指標となる「グルココルチコイド」の分泌レベルを調べました。
グルココルチコイドは、副腎皮質でつくられるステロイドホルモンで、攻撃などのストレスを受けると分泌されます。
コルチゾールは、グルココルチコイドの一種です。
グルココルチコイドは、血流にのって脳に達すると、副腎皮質への刺激ホルモンの分泌を低下させ、過剰な分泌を抑えます(=ストレス応答システム)。
そのため、生体の恒常性維持に欠かせません。
実験プロセス
研究チームは、日本盲導犬総合センター(静岡)で生まれた425頭(63胎)の仔イヌを対象とし、そのうちの21胎の母イヌの養育行動を記録しました。
盲導犬となる仔イヌは普通、8週齢時にパピーウォーカー(盲導犬候補を約10カ月間育てるボランティア)に預けられ、1歳時に本格的な訓練センターに移行します。
母イヌについては、出産後5週目までの授乳、仔イヌを舐めるなどの接触行動を観察し、定期的に尿を採取しました。
仔イヌは、5週齢と7週齢時、および、1歳の訓練センター入所後2週間目に採尿を行い、訓練開始後に行われるタスクパフォーマンス評価を個体特性の指標として用います。
また、母仔ともに尿中コルチゾール値を測定し、ストレス耐性を調べました。
5週齢時のコルチゾール基礎値が上昇!
その結果、出産経験・コルチゾール分泌量・養育行動を多く示す母イヌの仔は、5週齢時のコルチゾール基礎値が高いことが判明しました。
さらに、これらの仔イヌは、訓練センター入所時(環境変化)に一度コルチゾール値が高くなるものの、比較的すばやく低下し、日頃の恐怖反応も少なかったのです。
その一方で、7週齢時のコルチゾール基礎値は、母イヌの養育行動と関連せず、環境変化に対するストレス耐性の高まりも見られませんでした。
従来の説では、母親の養育行動が高いと仔のグルココルチコイドの分泌は低下し、成長後の攻撃性や恐怖反応が弱まるとされます。
しかし、今回の研究では、十分な養育により成長後のストレスからの回復力が高くなるという真逆の結果が示されました。
研究チームは、イヌとヒトの発達過程には共通点が多いため、今回の結果は、ヒトの発達についても重要な示唆をもたらすと述べています。
哺乳類にとって、母親の存在というのは想像以上に大きいようです。