巨大カルデラ噴火はどうしてヤバいのか
火山が噴火する時は、まず、火山の地下深い地殻にマグマが溜まります。溜まるだけ溜まると上昇していきます。マグマには火山ガスが含まれているため、火口が開くと圧力が減ってババーンと噴出するのです。火口が開く前に水と出会ってしまい、マグマの熱で急激に蒸発した水による水蒸気爆発になるかもしれません。
よく振った炭酸飲料の蓋を開けると勢いよく噴出しますが、あれと似ています。
含まれるガスが少なければ、噴出せず火口から流れ出るか盛り上がるだけという場合もありますが、こうしてマグマが地表に噴出する現象が「噴火」です。
山頂もしくは山腹からの噴火を「山体噴火」といいます。山腹にも火口のある有名な火山といえば、ですね。富士山が江戸時代中期の宝永4年に起こした宝永大噴火の火口は富士山の山腹に大きく口を開いています。
もうひとつ、「山体噴火」とは別にカルデラ形成を伴う「カルデラ噴火」があります。
火山の噴火は山体崩壊を引き起こすことがありますが、カルデラ噴火ではそれが大規模に発生し、山がマグマ溜まりに落ち込んでしまうため、カルデラは窪んだ形をしています。カルデラの多くはクレーターのような形です。
有名な活火山、桜島と鹿児島湾は巨大カルデラのひとつ「姶良(あいら)カルデラ」に囲まれた形です。鹿児島湾全体が火山で、雄大な桜島はその南端に位置している一個の火山に過ぎないといえば、その巨大さがわかると思います。
大規模な噴火は火砕流を引き起こしますが、この火砕流は土石流とは違います。
火砕流はマグマ由来の火山灰や軽石などの固形物だけでなく、蒸気や火山ガスを含んだ数百℃にもなる高温で、それが速い時には時速100kmもの高速で流れてくるのです。
くらったら即死。
有名なポンペイの悲劇を思い出してください。町が火砕流に飲まれ、大量の火山灰が降ると大変悲惨なことになります。
しかし、あれは山体噴火でした。視点を阿蘇に戻しましょう。
ここから先は阿蘇の巨大カルデラ噴火によって日本が終了する最悪のシナリオです。このシナリオに出てくる数字は、最も地質学的な情報が揃っている過去の巨大カルデラ噴火で、今から約2万8000年前に起こった姶良カルデラ噴火を元にしています。
阿蘇で巨大カルデラ噴火が起きると、飛び散った溶岩や軽石、火山灰などが大量に吹き上がります。そして、やがてそれが降ってくると火砕流となって発生から2時間以内に700万人もの人が暮らすエリアを埋め尽くします。
つまり、火砕流や有毒な火山ガスが到達する前に逃げなければ、手始めに700万人が短時間で命を落とすことになるのです。
山体噴火とは各段に規模が違い過ぎです。しかし、これはほんの序章。悲劇の始まりにすぎません。
続いて第一章「静かなる殺人者」が静かに幕を開けます。火砕流に続いて大量の火山灰が降り注ぐのです。
これは噴火したエリアだけではありません。火山灰は偏西風に乗って九州から遠く北海道まで運ばれていくからです。
火山灰は北海道東部を除く日本全域に降り注ぎます。九州の北半分、四国、中国地方で50cm、火山灰が積もるという予想。関東、上信越、北陸で20cm、東北で10cm、北海道東部で5cmです。
ちなみに桜島の降灰予報(厚さ)は「やや多量」は0.1mm以上1mm未満。「多量」は1mm以上です。1cmではありませんよ。1mmです。
1978年、北海道で有珠山が噴火した時は1cmの降灰で浄水場はろ過用の砂が目詰まりしています。下水管も次第に詰まって使えなくなるため、降灰により上下水道はストップします。
そして大量の火山灰が降ると発電所のフィルタ等が詰まるので、水だけでなく電気もストップ。火山灰が降ると空が曇るので太陽光発電も使えません。
火山灰は木や炭などを燃やした灰とは違い、微細なガラス質です。鉱物なので積もると重くなり、濡れるとさらに重さを増します。
これは屋根にどんどん石が乗ってくるようなもので、木造家屋は30cmの降灰で雨が降ると倒壊の恐れがあるとみられています。電線も重みで切れてしまうのは大雪による着雪と似ています。倒木も相次ぎそうです。
さらに、道路や鉄道が埋もれてしまうことで輸送網が使えなくなります。
現在、富士山噴火のリスクについて報道もされていますが、降灰3cm以上で鉄道の運 行停止や停電が起こると考えられています。エンジンが動かなくなるため航空機も使用不能に。軽石の被害で船舶も動けなくなります。つまり交通網は全てマヒ。
微細な火山灰は精密機器に入り込むことで不具合を引き起こします。これで通信インフラもアウト。
ライフライン、交通、通信がほぼ同時に突然使えなくなり、すべてが完全にマヒした中に取り残される1億1750万人の日本人。あなたはそのうちの一人です。
逃げることも、助けを待つことも、大切な人たちと連絡を取ることもできずに取り残される中、時間だけが過ぎていきます。
地震大国日本のことなので、1週間分ぐらいの食料や水、簡易トイレなどの備蓄はあるかもしれません。しかし、巨大カルデラ噴火が起きた場合、局地的な大地震と違って全ての地域が被災地。交通網がマヒして通信もストップしている中、誰が助けてくれるでしょうか?復旧はいつになるかわかりません。
そろそろ絶望の色が濃くなってきましたね。第二章「死神の足音」の幕開けです。
生き残る道は本当にないのでしょうか。スーパーマーケットやコンビニからはあっという間に水や食料が尽きて、あなたは気づきます。「そうだ、もっと遠い農産地へ行けば食料も水もあるはず」と。
あなたは家を出ます。交通網がマヒしているので何とか歩いて、ちょっと遠い田舎の農産地へたどり着いたとしましょう。
そこであなたが見るのは一面の砂漠と化した農地と、餌がなくなって餓死した家畜、火山灰によって酸欠で死に絶えた魚の浮く川や湖……。遠い農産地でも全然大丈夫じゃありません。それが巨大カルデラ噴火です。
巨大カルデラ噴火では都会も田舎も、カルデラから遠く離れていても無差別に火山灰は降り注ぎ、食べるものはなくなります。そして目や喉、気管支に不調が出始めます。日常的に火山灰に慣れている鹿児島県人も青ざめるレベル。
しかし、これはまだ第二章なのです。
カルデラ噴火が何でヤバいのか。それはあっという間にライフラインが止まるだけでなく、復旧の見込みが立たずに水も食料も失われていき、日本のほぼ全体が救援も望めない状況に陥るからに他なりません。死の足音が徐々に近づいてきます。
終章「【日本終了のお知らせ】」です。生き残る道は本当にないのです。