なぜヤギにクモの遺伝子を組み込んだのか?
スパイダーゴート実験は最初に、カナダのバイオテクノロジー企業「ネクシア・バイオテクノロジーズ(Nexia Biotechnologies)」によって開始されました。
その目的とは何か?
それは悪党を退治できるスパイダーヤギを作るためではなく、強靭なクモ糸を大量生産するためです。
クモ糸は古くから、地球上で最も優れた天然繊維の一つとして知られ、その特性は鋼鉄やケブラー(防弾ベストなどに使われる素材)を凌ぐとされています。
クモ糸の優れた特性はあらゆる分野の高性能材料や先端技術への応用が可能です。
例えば、鋼鉄やケブラーよりも軽くて頑丈なボディアーマー、強度・耐久性・伸縮性に優れたパラシュートコードの開発。
また生体とも適合性が高いため、関節の再建手術に用いる人工靭帯を作ったり、生分解性で自然に体内に吸収されるため、抜糸不要の縫合糸にも最適です。
それからクモ糸は軽い上に耐衝撃性も極めて高いので、宇宙服や宇宙船の補強素材にも適しています。
こうした計画を実現するためにも、科学者たちはクモ糸を大量に欲していました。
ところが不運なことに、クモは縄張り意識が強く、狭い空間に閉じ込められると仲間同士で共食いをするため、家畜のように大量に飼育することが不可能だったのです。
加えて、クモ1匹が分泌できる糸の量はごくわずかであり、1匹ずつクモ糸を集めることは工業生産的に現実的ではありませんでした。
そんな中で科学者たちは「これだ!」という名案を思いつきます。
「家畜として安定して飼育できるヤギにクモ糸を大量に作ってもらおう」と考えたのです。
その方法がヤギにクモの遺伝子を組み込むことで、お乳と一緒にクモ糸を生産させるというものでした。