文化差は免罪符になるのか?研究の狙い

子どもへの身体的な罰(体罰)は、古くから多くの社会で「しつけの手段」として受け入れられてきました。
しかし、近年の高所得国における大規模研究の蓄積からは、「叩く」「殴る」「揺さぶる」といった体罰が長期的にまったく利益をもたらさず、むしろ子どもに深刻な悪影響を及ぼすことが示されています。
とはいえ、世界には文化的背景や経済的事情が多種多様に存在し、「高所得国と同じ結論がどこでも当てはまるのか?」という疑問は長い間残されたままでした。
実際、2006年に国連事務総長が「子どもに対する体罰の全面禁止」を呼びかけて以来、多くの国で体罰を規制する動きが進んできた一方、「地域で当たり前の習慣なら有害ではないのでは?」とする見方や、低・中所得国(LMICs)での調査事例が十分でないことなどから、議論はまだ完全に収束していません。
こうした状況で注目を集めたのが、今回の研究です。
研究者たちは、高所得国で確立されつつある「百害あって一利なし」という知見が、異なる文化・経済圏にも当てはまるのかを徹底検証するため、世界各地で行われた関連研究を網羅的に分析しました。
とりわけ低・中所得国では、しつけ方法や家庭環境、子どもを取り巻く社会制度などが高所得国と大きく異なります。
それゆえに、同じような結論が得られるのか、それとも新たな発見があるのかは、専門家の間でも長らく“解明されていない謎”として関心を集めてきたのです。
そこで今回研究者たちは、世界中の関連研究を膨大に集め、メタ分析や多角的な調査手法を駆使して、体罰が子どもたちの長期的発達に与える影響を詳細に探ることにしました。
次のセクションでは、具体的にどのように調査が行われ、どのような結果が得られたのかを見ていきましょう。