体罰0勝16敗の衝撃データ

この研究では、まず世界各地に点在する低・中所得国(LMICs)の研究データを徹底的に収集しました。
対象となった国は90を超え、そこで行われた関連論文や調査報告、およそ200近いデータ群をまとめて分析しています。
研究者たちは、「体罰を経験した子どもたちの学習面・心理面・社会的行動などがどのように変化するのか」を一つひとつ確認するため、総合的な“メタ分析”という手法を使いました。
これは、さまざまな研究結果を集めて統計的に整理し、全体としてどのような傾向があるのかを探る方法です。
具体的には「親子関係の良し悪し」「学業成績」「うつや不安などの精神的健康」「将来の暴力行為や被害のリスク」「物質乱用の可能性」など、合計で19種類の指標が取り上げられました。
その結果、体罰が行われた子どもたちはなんと16項目で明らかにマイナスの影響を受けていることがわかったのです。
たとえば、親への愛着や信頼が弱まったり、学習意欲が低下したり、大人になってからパートナーや他人に対する暴力を容認しやすくなったりするというデータが示されています。
一方で、残り3項目については「有意な差が見られなかった」という結果にとどまり、プラスの影響が確認された指標はゼロでした。
(※有意差がなかった3項目は、認知能力、運動能力、児童労働への従事確率でした。ただ認知能力については米国での調査では低下したとの研究結果もあります。)
つまり、この研究のデータからは「どんな国・どんな子どもであっても、叩くなどの体罰が彼らの成長に役立つ」という証拠は一切見つからなかったのです。
さらに興味深い点は、文化的背景や経済力が異なる国々のデータを合わせても、結果の方向性がほぼ一貫していたことです。
従来、高所得国では「叩いても良いことはない」という傾向が示されていましたが、今回の分析は、低・中所得国でもそれが同じように当てはまることを強く裏づける内容となりました。
ここには、しつけの仕方や社会の慣習がどうであれ、体罰が普遍的に子どもに悪影響を及ぼす可能性があるという、重要な示唆が含まれています。