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「幸福度ランキング世界1位」なのにフィンランドはなぜ自殺率が高いのか?

2025.08.10 21:00:00 Sunday

毎年発表される「世界幸福度ランキング」。その常連であり、8年連続で1位の座を守り続けている国、それが北欧のフィンランドです。福祉は充実し、教育もすべての子どもに無償で提供され、豊かな自然と治安の良さ。誰もが「理想の暮らし」と思い浮かべる環境がそこにはあります。

しかしそんな国に、少し意外な統計があります。実はフィンランドは、ヨーロッパの中でも比較的高い自殺率を持つ国の一つなのです。特に男性や高齢者の自殺は深刻で、一時期は「自殺大国」とも呼ばれていました。

「『幸福な国=自殺が少ない』は成り立たないのか?」

この矛盾するような現象は、単なる統計の偶然ではありません。実際、フィンランドでは1980年代から自殺対策に力を入れ、自殺率は半分以下にまで下がっています。それでもなお、「幸福な国」にもかかわらず、一定数の人々が自ら命を絶ってしまう現実は続いているのです。

この問題は、突き詰めていくと、日本がなぜ自殺率が高いのか? という疑問と通じるところがあるかもしれません。

Life Satisfaction and Suicide: A 20-Year Follow-Up Study https://doi.org/10.1176/appi.ajp.158.3.433 Variation and seasonal patterns of suicide mortality in Finland and Sweden since the 1750s https://doi.org/10.1007/s12199-013-0348-4

フィンランドはなぜ「幸福な国」なのか?

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「幸福度ランキング」は、国連SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)らによって毎年発行されている『World Happiness Report』に基づいて毎年発表されています。この報告書では、世界各国の人々に「あなたの人生を0(最悪)から10(最高)で評価するとどのくらいですか?」と尋ね、その平均値をもとに国ごとの“幸福度”を数値化しています。

これはGDPなどの客観的な経済指標ではなく、人々が自分の人生をどう感じているかという実感にもとづいたものです。

フィンランドはこの評価で、2018年から2024年まで7年連続で世界1位を獲得しています。要因としては、所得や健康寿命、社会的支援、自由度、寛容さ、政治・行政の腐敗の少なさなど、総合的な社会環境の良さが挙げられます。

しかしその一方で、フィンランドは長年にわたり「欧州の中でも自殺率の高い国」として知られてきました。とくに1980年代後半には、自殺率が世界でも最悪レベルに達し、人口10万人あたり約30人が自ら命を絶っていた時期もあります。男性や高齢者の自殺率が突出して高かったのも特徴です。

こうした事態を受けて、1990年代からフィンランド政府は「国家自殺予防プロジェクト」に取り組み、精神医療サービスの拡充やアルコール依存対策、学校教育での早期介入など多面的な支援策を実施しました。その結果、2020年代には自殺率が約半分にまで減少し、人口10万人あたり14〜15人程度にまで下がっています。

それでもなお、フィンランドの自殺率はEU平均よりも高い水準にあり、特に一部の層では深刻な問題が続いています。

こうした状況は、「国としての幸福度が高くても、それが自殺率を下げる要因にはならない」という一見矛盾した事実を示唆しています。

では、このような不思議な状況になる原因はなんなのでしょうか?

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、フィンランド国民に「生活満足度を10点満点で評価」してもらった場合、「5点以下」の回答をした人の割合は、8〜10%と報告されています。この割合はスウェーデン(5〜6%)より高く、ドイツと同程度であり、日本(約14〜16%)よりは少ない水準です。

一見するとこれは少数派に見えるかもしれませんが、ここに大きな落とし穴があるようです。

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