宇宙で最大級の重さは本当に信じられるのか?

銀河の中心には太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在し、銀河とブラックホールは互いに影響し合いながら共進化すると考えられています。
しかし「どこまで大きなブラックホールが存在しうるのか?」という問いに答えるのは容易ではありません。
これまでにも観測史上最大級とされるブラックホールがいくつか報告されており、例えば超高輝度クエーサーの中心にあるTON 618は太陽の約660億倍の質量を持つと推定されました。
また銀河団Phoenix Aの中心については、理論モデルをもとに太陽の約1000億倍の質量を持つブラックホールがある可能性が算出されました。
実際「最大のブラックホールは太陽1000億個分の重さがある」という見出しのニュースや動画を見た人もいるでしょう。
しかしこれらの数値の信頼性については、あまり知られていません。
たとえば太陽の660億倍とされるTON 618の質量は遠方クエーサーの明るさなど間接的な手法で推定された値にすぎず、この方法の誤差は「±150~220%」とベース値(660億倍)を挟んで数倍にも及ぶのが一般的です。
また太陽の1000億倍とされるPhoenix Aの値は主に理論モデルから導いた推測値に過ぎずそもそも観測値ではありません。
要するに「最大のブラックホール」の候補はいくつもあったものの、その質量は測定法の限界によって確証を欠いていたのです。
では、なぜ遠方にある巨大ブラックホールの質量を測ることが難しいのでしょうか。
ブラックホールそのものは光を放たないため、その存在や質量は周囲の星やガスの振る舞いを手がかりに推定するしかありません。
近傍の銀河であれば望遠鏡によって星やガスの運動を詳細に観測でき、中心のブラックホールに引き寄せられてどの程度速く動いているか(重力の影響)を測ることでブラックホールの質量を割り出すことが可能です。
実際、私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホール(いて座A)は周囲を回る恒星の軌道運動から太陽約400万倍という質量が直接計算されています。
しかし何十億光年も離れた銀河では個々の星の動きを捉えることは困難であり、ブラックホールが休眠状態(=活動銀河核ではない)だと明るい光やX線も放たないため、従来の手法では遠方のブラックホールを直接測定できませんでした。
そこで研究チームは重力レンズという自然現象に注目しました。
重力レンズ現象とは、手前にある巨大な銀河や銀河団の重力場が時空を歪め、背後の遠方銀河からの光を曲げる現象です。
この効果は、まるで宇宙に存在する巨大なレンズのように遠くの天体を明るく拡大して見せてくれる利点もあります。
研究チームは、この重力レンズの観測データと銀河中心部の星の運動データを同時に解析することで、遠く離れたブラックホールの質量を高い精度で割り出そうとしたのです。