時間は「解像度」だった――時間の始まりも境界の理論で扱えるかもしれない
時間は「解像度」だった――時間の始まりも境界の理論で扱えるかもしれない / Credit:川勝康弘
physics

時間は「解像度」だった――時間の始まりも境界の理論で扱えるかもしれない

2025.12.12 21:30:20 Friday

日本の沖縄科学技術大学院大学(OIST)とイギリスのケンブリッジ大学(Cambridge)で行われた研究によって、宇宙の「時間」や「始まり」を、別の宇宙の解像度に翻訳して扱える可能性が示されました。

研究では三次元の宇宙の「時間の進み」をホログラフィック原理が描く二次元的な境界世界の解像度の方程式に書き直すことに成功しています。

こっち側の宇宙では「時間の始まり」や「インフレーション」は難問ですが、あっち側の宇宙の解像度の方程式として理解を進めていくことで、別角度からの理解がと期待されています。

研究内容の詳細は2025年11月14日に『arXiv』にて発表されました。

Holographic Cosmology at Finite Time https://doi.org/10.48550/arXiv.2511.04511

一番わからない時間を「別の言語」に翻訳できるかもしれない

一番わからない時間を「別の言語」に翻訳できるかもしれない
一番わからない時間を「別の言語」に翻訳できるかもしれない / Credit:Canva

時間というものは、妙に当たり前の顔をしています。

朝、目覚まし時計を止めた瞬間も、電車が発車する瞬間も、時間は何食わぬ顔で前へ進みます。

けれど「そもそも時間とは何か」「時間には始まりがあるのか」と聞かれた途端、足元の床が抜けたように心許なくなります。

ビッグバンで時間が始まったと言われますが、「時間が始まる前」を考えるのは不思議で難しい問題です。

実際、ビッグバンの瞬間は特に一般相対論などの枠内では計算が破綻してしまい、科学にとって長らく手つかずの難問として残されてきました。

この謎に挑むため、科学者たちはさまざまな仮説を提案してきました。

たとえば時間問題に正面突破を試みた「無境界仮説」(宇宙に始まりの端がないと考える説)では、宇宙に最初の境界がないと考えることで「その前」という問い自体をなくそうとしました。

しかし物理学では近年、正面から殴り合う代わりに別の理論が立ち上がりつつあります。

その代表がホログラフィック原理です。

ホログラフィック原理では、いつも二つの世界が登場します。

ひとつは「こっち側」の世界。

時間が流れ、重力がはたらき、銀河やブラックホールがうごめく、三次元的な私たちの宇宙です。

もうひとつはその三次元を覆う表面のようなもの(境界)にある「あっち側」の世界。

高次元の重力は直接は登場せず、ただ平らな空間のうえで量子場がざわめいているだけの、境界の世界です。

ホログラフィーは、この二つが“同じ物語の別訳”だと言います。

同じ映画を日本語吹き替えで見るか、英語字幕で見るかの違いのように、こっち側の宇宙とあっち側の量子論は、一対一で対応していると考えられています。

つまり宇宙の出来事を、「こっち側(奥行きのある世界)」の宇宙の言葉ではなく「あっち側(境界の世界)」の宇宙の言葉で書き直せるわけです。

ここで面白いのは、それぞれの世界で「根源的な問い」が微妙にズレていることです。

こっち側では、「時間の始まり」が最大級の謎になります。

ビッグバンは本当に“最初”だったのか、時間の前に「何か」はあったのか、それともそんな風に時間に“前後”を問うこと自体が間違っているのか?

その答えは「こっち側」の宇宙の方程式で突き詰めても容易に答えは出てきません。

しかし面白いことに「あっち側」の世界にはそもそも時間という軸は最初から与えられていません。

かわりにあるのは、「どれくらい細かい目で世界を見るか」という宇宙の解像度のダイヤルです。

顕微鏡の倍率を上げたり下げたりするイメージに近いものです。

そのダイヤルを回すと、量子論のルールの見かけが少しずつ変わっていきます。

「そんなことはあり得ない」と言う意見もあるでしょう。

ですがホログラフィック原理はただの妄想ではありません。

この「境界で宇宙を表す」というホログラフィーはブラックホール研究などで大きな成果を上げ、宇宙そのものにも応用できるのではと期待されています。

実際、我々の宇宙も地平線(これ以上先が見通せない境界のようなもの)があると考えられていて、その振る舞いは「デ・ジッター空間(加速膨張する宇宙の理想モデル)」と呼ばれる理想化モデルにわりと似ています。

デ・ジッター空間には、ある意味で「これ以上先を見通せない果て(境界のようなもの)」が現れます。

これはホログラフィック原理の想定と相性が良いと考えられます。

そこで今回ケンブリッジ大学やOIST(沖縄科学技術大学院大学)などの研究者たちは私たちの宇宙(こっち側)で理解が困難な「時間」をあっち側の解像度としての言葉でなら上手く記述できるのではないか?と考え、検証することにしました。

もしこの試みが成功すれば、宇宙誕生やインフレーションといった謎を、世界の解像度という比較的わかりやすい別の角度から読み解けるかもしれません。

ですが、本当にそんな大胆なことが可能なのでしょうか?

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