宇宙のはじまりにいた小さくて激しいブラックホール

今回の主役は、原始ブラックホールです。
これは、重い星が最後に潰れてできる普通のブラックホールとは違います。
初期宇宙には、まだ星も銀河もありませんでした。
そこに広がっていたのは、超高温・超高密度の素粒子たちです。
言ってしまえば、宇宙全体が熱く濃密な粒子スープだったわけです。
たとえば、このときの宇宙の高温プラズマを、もしスプーン1杯ぶんだけ取り出せたとしたら、その重さは目安として富士山をはるかに上回っていたでしょう。
そんな濃密な状態では、十分に大きな密度ゆらぎで莫大な重力を生み出す領域ができて、そのままブラックホールができてしまったと考えられています。
そのため初期の宇宙は単に超高温・超高密度だけではなく、小さな原始ブラックホールがあちこちに点々と存在する、荒々しい空間だった可能性があるのです。
ただそのような、小さな原始ブラックホールの寿命は長くありません。
なぜなら、理論上ブラックホールは小さいほど温度が高くなり、蒸発のスピードも速く、最後に向かうほど猛烈な勢いでエネルギーを放出すると考えられています。
これまでの研究では、こうした原始ブラックホールのまわりでは、放出されたエネルギーが周囲にしみ出していき、近くに「ホットスポット」ができる、という見方がよく取られてきました。
たとえば熱湯の中に熱したパチンコ玉をたくさん投げ込んだように、熱湯の中にさらに熱い温度を発する場所が無数に存在する状況です。
ですが今回研究チームは、エネルギーがただ熱として「じわっ」と広がるだけではなく、まずごく近くの領域を急激に再加熱し、その結果として非常に大きな圧力差が生じるだろうと考えました。
そして圧力差が十分に大きくなると、周囲の粒子は外側へ向かって激しく押し広げ、一部の流れは光速に迫る速度に達して、周囲に衝撃波が形成されると考えました。
私たちが動画などで目撃する空気中の衝撃波は、空気の粒子の振動を伝える速さ、つまり音速を超える速度のものがあるときに発生します。
しかしこの原始ブラックホールの周りで発生する衝撃波は、空気の代りに、超高温・超高圧の粒子たちの間での振動の速度を超えた時に起こるものです。
役者は違いますが、原理はよく似ていると言えるでしょう。
再びパチンコ玉を例にとると、熱湯の中に赤くなるまで極端に熱したパチンコ玉を入れると「じわっ」と熱が拡がるのに先駆けて、爆発のような現象が起こりますが、似たことが初期の宇宙では原始ブラックホールのまわりで起きていたと考えられます。
ですが面白いのはここからです。
研究ではこの荒々しい環境が、私たち物質で作られた存在が宇宙に存在できるようになった切欠になりえると述べています。
現在の宇宙には、物質がたくさんあります。
星も惑星も、海も空気も、私たちの体もそうです。
ところが標準的な考え方では、宇宙の初期には物質と反物質がほぼ同じだけ生まれたはずです。
もし本当にぴったり同数なら、両者は出会って消え、今のような物質だらけの宇宙は残りません。
それなのに現実には、物質がほんの少しだけ勝ち残りました。
この「ほんの少し」があったおかげで、今の宇宙があります。
では、その偏りはどこで生まれたのでしょうか?
物質と反物質の差を作るには、「宇宙全体がなめらかに同じルールで進む」のではなく、「ここだけ急に熱くなる」「ここだけ性質が変わる」といった、局所的で急激な変化が要るのです。
今回の研究は、その“乱れ役”として、原始ブラックホールの衝撃波を持ち出しました。
研究では、もし原始ブラックホールが十分に激しい衝撃波で初期宇宙の超高温・超高密度の粒子のスープを荒らしたなら、物質と反物質の差を作るのに十分な「ここだけ急に熱くなる」「ここだけ性質が変わる」という現象が起こせる可能性が指摘されています。




























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