竜脚類は水の中で生活していた?
恐竜の中でも、ポピュラーで人気があるのがブロントサウルス、ブラキオサウルス、ディプロドクスなどを代表とする巨大竜脚類です。
これらは別名雷竜とも呼ばれていて、恐竜の中でも特段に巨大なサイズを持っていました。
その全長は30メートル近くに達し、体重は30トン近かったと見積もられています。
そのため、考古学者の間でも「あまりに大きすぎるため、陸上を歩くことができなかったのでは?」という疑問があげられていて、以前の学説ではこれら巨大竜脚類は、浮力で体重を緩和できる水中で生活していたと考えられていたのです。
竜脚類のような大型の恐竜は、重心が低位置にあり、首が長く、さらに鼻孔が頭の上部についていました。
これらは水中生活に適応していた証拠だとされたのです。
またその証拠と思われる発見が他にも報告されていました。
それが1940年頃、古生物学者のローランド・T・バード(Roland T. Bird)が、テキサス州バンデラ群の牧場で発見した珍しい竜脚類の足跡化石です。
何が珍しかったかというと、その足跡化石には前足のみで、後ろ脚の跡が残っていませんでした。
発見者のバードは1940年に手紙の中で次のようなことを語っています。
「竜脚類の足跡であることは間違いないが、私の解釈ではこれは泳いているときにできたものとしか思えない。
足跡はすべて典型的な前足だけで、まるでその生き物が深い水の中でかろうじて底を蹴っているかのように見える」
しかし、現在では竜脚類が水中生活していたという考え方は否定されています。
その理由の1つは水圧で肺が圧迫されるため、物理的に不可能だったというもので、首が長いのは尾と釣り合いを取って前後に長く伸ばしてバランスをとっていたから、とされています。
このため、バードの考え方は次第に通用しないものになっていきました。
現在この足跡化石については、竜脚類の体重は主に前足に大きくかかっており、後ろ脚にはあまり体重がかかっていなかったために、前足の踏み固めた跡しか化石として残らなかったためと解釈されています。
このように、竜脚類の陸生説が現在は一般的です。しかし、竜脚類の水中生活説は完全に否定されているわけでもありません。
そして、この説に再び再考を迫る痕跡が、新たに発見されたのです。
それが第2の前足だけの足跡化石です。
これは2007年に、テキサス州にあるグレン・ローズ層と呼ばれる約1億1000万年前(白亜紀)の恐竜の足跡が数多く見つかる地層から発見されました。
この層の中でも「コーヒー・ホロー(Coffee Hollow)」と呼ばれる石灰岩に足跡はありました。
パデュー大学フォートウェイン校とヒューストン自然科学博物館のチームが調査したところ、ここには、竜脚類の足跡が並行して3つ並んでいましたが、これらはすべて前足だけだったのです。
足跡を残した恐竜の種類は、現在特定されていません。
ただ足跡の大きさや、その歩幅(最大で約70m)を考えると、これは非常に大きな種類の竜脚類であった可能性が高いと考えられています。
これが、先程の陸生説に基づく、前足と後ろ脚の体重の掛かり方に大きな差があるために残った可能性もあります。
ただ、これがこの足跡の主のもっと異常な行動を示している証拠である可能性も否定できないと研究者は語ります。
その異常な行動とは、いわゆる深い水の中を泳ぐことでできた跡、ということです。
もちろん研究者はこの考えを完全に支持しているわけではありません。
しかし、この前足だけの足跡の付き方は、以前バードが主張した、竜脚類が非常に深い水の中を泳いでいて、後ろ脚は底につかずに浮いていたという考え方が正しかった可能性を再考するのに値する証拠だといいます。
もちろん、これ以上確かなことは、さらなる証拠を見つけなければなんとも言えないと研究者は語ります。
しかし、もしかしたら巨大な竜脚類は、やはり水中生活をしていて深い水の中を泳いでいたのかもしれません。