予防法が見つからないアルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳が萎縮して日常行動や記憶、思考に問題を起こす脳の病気で、認知症患者の80%近くを占めている症状です。
この病気は老人の病気という認識が強いため、若いうちに危機感を強く抱いている人は少ないかもしれません。
しかし、アルツハイマー病の患者は年々増加傾向にあり、現在米国では500万人以上が罹患しています。
そして、効果的な予防法・治療法が早期に発見できなかった場合、2050年までに米国では患者数が1380万人を超えると予想されているのです。
しかし、アルツハイマー病に有効な新薬の開発は、重大な副作用が見つかるなど、現在のところあまりうまく行ってはいません。
そこで、今回の研究を主導したクリーブランドクリニックの研究者フェイション・チェン(Feixiong Cheng)博士は、アメリカ食品医薬品局(FDA)からすでに承認を受け安全性が確認されている1600以上の既存の薬の中から、アルツハイマー病に役立つものがないかを調査したのです。
さきほどバイアグラの例で説明したように、既存の医薬品でもまったく別の症状に対して大きな効果を発揮させるのは珍しいことではありません。
チェン博士は、早期にアルツハイマー病治療薬を新たに開発・承認することは困難だと判断し、既存薬の中に有効なものが存在している可能性に賭けたのです。
アルツハイマー病の原因は、主にアミロイドβとタウタンパク質と呼ばれる2つの特殊なタンパク質が相互作用して脳内に蓄積するためだとわかっています。
これが老人斑と呼ばれる脳細胞の変化を引き起こします。
そのため、チェン博士はアミロイドとタウタンパク質に反応する化合物を調査しました。
その結果、シルデナフィルがもっとも有望な可能性を持つことがわかったのです。
シルデナフィルとは、さきほど述べた通りバイアグラの主成分です。
そこで、研究チームは次に720万人以上の健康保険請求データをもとに、そこでシルデナフィル(バイアグラ)を服用している人と、そうでない人の6年間分のアルツハイマー病の発症比率を調査したのです。
すると驚いたことに、バイアグラの使用者は、非使用者と比較してアルツハイマー病の発症が69%も少なかったのです。
これは同様の調査対象となった他の数種類の薬よりも、著しく顕著な結果でした。
もちろん現在のところは明確に、アルツハイマー病とバイアグラの因果関係が証明されているわけではありません。
ただ、研究チームはこの結果にかなり強い信頼を持っていて、バイアグラがアルツハイマー病の認知機能低下を予防する有望な薬剤である可能性が高いと述べています。
今後チームは、より明確な因果関係のテストを臨床試験によって明らかにしていく予定だと語っています。