運動は脳の炎症を抑えるタンパク質を肝臓から分泌する
いったいどんな血中成分が、運動の結果を脳に伝達しているのか?
謎を確かめるため、研究者たちは運動しているマウスと運動していないマウスの遺伝子の活性度を比較してみました。
すると運動することで約2000個もの遺伝子の活性度が変化していると判明。
また最も変化が大きかった上位250個の遺伝子の多くが、体や脳の「炎症」に強くかかわっていることも明らかになりました。
炎症は体を守る免疫システムの重要な一部ですが、炎症は細胞に重度の負担を強いる反応であるため、炎症レベルが高いと臓器の性能が落ちてしまいます。
インフルエンザなどによって全身がダルくなるのは、体のあちこちで炎症が起きて機能低下を起こしているせいでもあるのです。
また炎症は感染が起きていない場合でも、健康な生活習慣によって増加することも知られています。
そこで炎症をキーワードに運動による血液成分の変化を調べたところ、クラステリンと呼ばれる肝臓から分泌されるタンパク質が運動しているマウスでは非常に豊富にあることが判明します。
さらにクラステリンを実際にマウスの血管に注射した場合、脳血管の外側にある、炎症にかかわる細胞に結合して、脳の炎症を抑えることが示されました。
どうやら運動が脳に与える効果は、究極的には、クラステリンに行きつくようです。
ただここまでの実験は全てマウスで行われており、人間でも同じように働くかは不明でした。
そこで研究者たちは、軽度認知障害のある20人の退役軍人に有酸素運動を行ってもらい血液成分を比較しました。
すると運動によって被験者たちの血中クラステリンレベルが有意に上昇したことが確認されました。