生後2年の死亡率が最大30%減少
先行研究(The New England Journal of Medecine, 2017)では、へその緒の切断を出生直後から60秒待つことで、生後1日目の新生児の生存率を高まることがすでに示されています。
本研究主任のジョナサン・モリス(Jonathan Morris)氏は当時、「この方法は、ほとんどすべての未熟児に適したとても簡単な技術であり、命を救うのに役立つ」と述べていました。
そこでモリス氏と研究チームは、この結果をもとに、さらなる追跡調査を実施。
調査は、7カ国における25の病院で行われ、予定日より10週早く生まれた新生児1531人を対象に、生後2年間にわたり健康状態を追跡しました。
加えて、別の研究結果のデータも合わせて、合計1637人の新生児について、へその緒を切るタイミングが健康に与える影響を調べています。
その結果、へその緒の切断まで30〜60秒以上の時間が空いている場合、生後から2才までの死亡率および障害リスクが約20%減っていることが判明しました。
特に減少率が高かったのは2才までの死亡率であり、最大で30%の減少となっています。
障害リスクについては、脳性麻痺、視力異常、難聴、発話障害などが17%減っていたとのことです。
「母親の血液」が死亡率を下げるカギに
新生児には、へその緒を通じて、母親の胎盤から血液が送られます。
その血液の中に、感染症の予防や酸素レベルの上昇に役立つ赤血球、免疫細胞、幹細胞などが含まれているのです。
これは、世界で毎年100万人いるとされる早期出産の未熟児にとって、きわめて重要なものと言われています。
また、2017年の先行研究では、へその緒の切断を60秒待つことで、出産直後に輸血を必要とする新生児が少なくなることも示されています。
研究チームのクリスティー・ロベルド(Kristy Robledo)氏は「早急な蘇生や医療措置を必要としない未熟児であれば、へその緒の切断を1分ほど待つ方法を一般化することで、今後10年間で5万人の新生児が死亡や障害を負うことなく過ごせるでしょう」と述べました。
また、研究主任のモリス氏は、こう指摘します。
「未熟児の治療を遅らせることはとても難しいため、新たなプロトコルの導入には、医療スタッフのトレーニングが必要不可欠です。
それでもこの方法が、新生児にとって最良の結果をもたらすことを本研究は示しています」
その一方で、研究には参加していない医療統計学者のアナ・レネ・ザイドラー(Anna Lene Seidler)氏は「医療介入が必要な現場にいる医師にとって、へその緒の切断を待つということは、大きな懸念と恐怖をともなう」と指摘。
氏は、5770人の乳児を対象とした42の臨床試験の分析結果をもとに、「未熟児は体が非常に小さく、危険な状態にあるため、直ちに措置をしないのは塾講の余地があるでしょう」と述べました。
これについて、世界保健機関(WHO)は「すぐに呼吸を整える必要のない新生児には、へその緒の切断の遅延を推奨するが、すべての乳児に常に適用されるべきではない」としています。
この方法の実践には、生まれてきた未熟児の状態を正しく見きわめる必要があるようです。