ジェゼロクレーターの有機分子を含む岩石
有機分子の発見と聞くと、すぐに生命の痕跡と結びつけて考えてしまいがちですが、今回の発見は火星生命の証拠ではありません。
有機化合物は、単に炭素ー水素の結合を含んだ物質の呼び名であり、これは非生物学的なプロセスで形成されることもあります。
実際、先行して火星調査を行う探査機「キュリオシティ」も、以前火星の岩石から有機化合物を発見しています。
そう聞くと、なんだ大したことではないのか、と軽く見てしまいそうですが、今回の発見には重要な部分があります。
現在、パーサヴィアランスが調査を行っているのは、ジェゼロクレーターと呼ばれる地域ですが、その南セイタ(South Séítah)と呼ばれる場所の岩石を分析したところ、大きなかんらん石の結晶が異常に多く含まれている事がわかったのです。
その意味は、地質学の研究者ならすぐに理解することができます。
これは、この辺りの岩石がゆっくりと冷却するマグマで形成されていたことを示しているのです。
ジェゼロクレーターの地域にある岩石がどのような由来を持つかについては、以前から研究者の間では疑問がありました。
それは古代の河川が流し込んだ鉱物の堆積物なのか? それとも火山性のものなのか? ということです。
もし火山性のものなから、今はもう消滅した火山から流れ出た溶岩かもしれません。
しかし、今回の発見でこの地域の岩石がマグマであった可能性が高いということがわかりました。
そしてその岩石は、何度も水と相互作用して変化した痕跡が見られるのです。
これはまだ、火星に水が豊富に存在していた時代に、何があったのかという歴史的出来事の年代測定に利用することができます。
そして、さらにこの岩石の中には有機分子の存在を確認することもできたのです。
以前は岩石の表面に有機分子を発見していましたが、岩石の内部に有機分子が見つかるということには重要な意味があります。
それは古代に形成された有機分子が、長い年月岩石内に保存されている可能性があることを示しているからです。
今回の発見は生命の痕跡発見ではありませんでしたが、はるか古代の岩石内に有機分子が保存されているということは、かつてここに生命体が存在したという痕跡も、同様に保存される可能性があるのです。
また岩石内部の有機物の空間分布をマッピングすることで、有機物と鉱物を関連付け、どのような環境でその有機物が形成されたかも調べることができます。
現在、パーサヴィアランスが集めた火星のサンプルを地球へ持ち帰る「火星サンプルリターン」も計画されています。
この計画はおよそ10年後に、実現する可能性があります。
パーサヴィアランスも岩石の分析を行う機器を搭載していますが、もし火星のサンプルを地球へ持ち帰ることができれば、火星には運び込めないような大掛かりな機器で分析を行うことが可能です。
今挙げたような、岩石内の有機分子の形成過程などは、火星サンプルを地球へ持ち帰ることで明らかにできるといいます。
そのとき、水に覆われていた時代の火星に何があったのか、その歴史が明らかになるかもしれません。
パーサヴィアランスは、地球へ送ることを目的に火星のサンプルを収める43個の保存容器が装備されています。
現在そのうちの4つに岩石の試料が、1つに火星大気が収められています。