宇宙では目の奥の静脈が膨張していた
SANSの症状としてよく知られているのは、視力の低下だけではありません。
眼球の形が変化したり、網膜が損傷したりするのです。
通常は地球に戻ってから数週間以内に回復しますが、時には数カ月から数年かかる場合もあります。
SANSの原因を調べるため、ローゼンバーグ氏らは、12人の宇宙飛行士を対象とし、宇宙旅行の前後で頭蓋骨内の静脈をMRIでスキャンしました。
その結果、SANSと目の奥に位置する硬膜静脈洞(こうまくじょうみゃくどう)の膨張に相関関係が認められました。
これは脳から心臓に血液を運ぶための大きな静脈であり、血液循環における重要な役割を果たしています。
本来であれば変化があってはならない部分なのですが、SANS患者では膨張と血液量の増加が見られたのです。
これには無重力による血流の変化が関係していると考えられます。
通常、重力がある場所では血液自体も下に引っ張られるため、ある意味「血流が悪い」状態にあります。
しかし人間の体にとっては、この状態が正常であり、健康を保つための大切な条件なのです。
そして無重力環境では、その条件がなくなります。
体内の血液分布が変化し、心臓より上の頭や目により多くの血液が流れてしまうのです。
つまり無重力による血流の変化が目に物理的な悪影響を与え、視力の低下につながっていました。
この新しい発見は、宇宙飛行士たちが自分の目に生じるトラブルをよく理解するのに助けとなるでしょう。
とはいえ、まだSANSには分かっていないことがたくさんあります。
研究チームは今後、ISSにMRI装置を設置して宇宙での脳スキャンを可能にしたいと考えています。