普通の細胞を「毛をつくる幹細胞」に再プログラム
髪の毛が生える仕組みは、驚くほど複雑です。
髪の毛は、皮膚上に生え出している「毛幹」と、皮膚中に隠れた「毛根」に分けられ、毛根の深部は「毛包」に包まれています。
この毛包の中に髪をつくる「幹細胞」があり、数種の細胞間の分子クロストークによって毛を成長させていきます。
しかし、加齢を中心に遺伝的不運などによって、毛包の中の幹細胞が殺されてしまいます。
この幹細胞がなくなると、髪の毛も育たなくなるのです。
これに対し、dNovo社は、普通の細胞を遺伝子操作で再プログラムすることにより、毛をつくるための幹細胞に変えるというアプローチを取ります。
同社CEOのエルネスト・ルハン(Ernesto Lujan)氏によると、細胞は生物学的に固定されたものではなく、一つの”状態”として理解できる、という。
そして、どんな細胞でも遺伝子のパターンを変えることで、ある状態から別の状態に押し上げることが可能と話します。
dNovo社は今回、血液や脂肪細胞などの他の細胞を再プログラムし、どんな種の組織でも形成できる幹細胞に変えることで、毛包を作り出しました。
そして、この毛包をつくる幹細胞をネズミの皮膚に移植したところ、豊かな毛幹が生え出したのです。
この研究成果については、以前記事として報告しているので、詳しく知りたい人はこちらの記事を参照してください。
この手法は、これまで数本の毛幹が生える程度でした。しかし今回はマウスの左脇の一部に密集して生え揃っています。
ルハン氏はこの結果について、「実用化にはもっと多くの研究が必要ですが、最終的にはこの技術により、脱毛の根本的な原因が解決されるでしょう」と述べています。
将来的には、患者自身の細胞から採取した幹細胞を用いることで、毛包の再生治療が実現します。
あるいは、マウスで育てた毛幹を患者の頭皮に移植することも可能です。
毛包は患者自身の細胞から作られるので、拒絶反応のリスクはほとんどありません。
しかし、この結果に興奮して先走りしすぎる前に、注意すべき点もあるとのこと。
毛髪再生のための幹細胞研究はすべて予備的なもので、有望な実験結果を安全かつ実用的な治療法として応用するには、克服しなければならない課題が数多く残されているという。
それでも、こうした問題点が解決されれば、人類が薄毛に悩むこともなくなるかもしれません。