難関を乗り越え、新記録を達成!
一方で、重水素-トリチウムの核融合には課題があります。
たとえば、この組み合わせの核融合は、粒子を約1億8700万km/h、つまり光速の17.3%で、月に8秒以内で到達できるほど加速させます。
そのため、実験では特別な防護シールドが必要です。
そこで今回のテストのために、JET炉の従来の炭素ライニング(内壁)は2009年から2011年にかけて、ITERにも設置予定のベリリウムとタングステンの混合物に取り替えられました。
この新たな金属製シールドは、炭素よりも核融合のストレスに強く、また炭素よりも水素の付着量が少なくなります。
もう一つの課題は、トリチウムが放射性物質であるため、特別な取り扱いを必要とすることです。
JETは1997年にトリチウムの安全な扱いに成功していますが、それでも細心の注意が欠かせません。
それから、重水素が海水中に豊富に存在するのに対し、トリチウムはきわめて希少です。
今のところ、トリチウムは核分裂炉で生産されていますが、将来的には核融合炉で中性子を放出し、トリチウム燃料を自前で生産できるようにするとのこと。
こうしたいくつもの難関を乗り越え、59メガジュールというエネルギーの放出に成功しました。
JETは1997年に22メガジュールのエネルギー生成を記録していますが、今回は、わずか600万分の1オンス(170マイクログラム)の重水素-トリチウム燃料で、その2倍以上のエネルギー放出に成功しました。
実験主任で、マックス・プランク・プラズマ物理学研究所の物理学者アティナ・カッパトゥ(Athina Kappatou)氏は「これだけの熱エネルギーを発生させるには普通、1.06キログラムの天然ガスや3.9キログラムの褐炭が必要であり、今回とは1千万倍以上の差がある」と説明します。
こちらが、核融合の実際の映像です。
しかし、JETが使用した銅の電磁石では、実験で発生する熱のために5秒ほどしか作動させられませんでした。
「JETはそれ以上の性能を発揮できるように設計されていなかった」とカッパトゥ氏は言います。
これに対し、ITERでは極低温で冷却された超伝導電磁石を使用するため、永久に作動するように設計されるという。
ITERは2035年に独自の重水素-トリチウム実験を開始することを目標としています。
カッパトゥ氏は「今回の実験で膨大な量のデータが得られたことで、ITERへの道筋がひらけた」と述べました。