92%の精度で「感情の分類」に成功
本研究では、411頭のブタを対象に、生から死までに発する音声記録、計7414件を収集しました。
この音声録音の際には、それがポジティブな感情(「幸せ」または「興奮」)とネガティブな感情(「恐怖」または「ストレス」)のどちらかを示す声か、判断できるよう舞台を設定しています。
たとえば、ポジティブな場面とは、子ブタが母親のお乳を吸うときや、離ればなれになっていた家族と一緒になるときです。
一方のネガティブな場面とは、家族や仲間との分離、ケンカ、去勢、屠殺などが考えられます。
さらに実験舎では、より微妙な中間の感情をブタに生じさせるための、さまざまな舞台が設定されました。
たとえば、オモチャや食べ物があるエリアと、何の刺激もないエリアです。
そこで実験舎に新しいものや見慣れないものを置き、ブタが触れられるようにしました。
こうして、ポジティブ・ネガティブ・中間にあたる感情の音声を収集。
この間、ブタの鳴き声や行動、心拍数を可能な限りモニターし、記録していきました。
その後、7414件の音声記録を分析し、感情の作用として音に物理的なパターンがあるかどうか、ポジティブおよびネガティブな感情を見分けることができるかどうかを確認。
先行研究ですでに明らかになっているように、ネガティブな状況では、高周波の音声(悲鳴や鳴き声など)がより多くなっていました。
一方、低周波の音声(吠え声やうなり声など)は、ポジティブとネガティブな感情のいずれでも発生していました。
さらに音声ファイルを徹底的に分析したところ、ポジティブな場面とネガティブな場面で、ブタの鳴き声に明らかな違いが見られました。
研究主任のエロディ・ブリーファー(Elodie Briefer)氏は、こう説明します。
「ポジティブな状況では、鳴き声はずっと短く、振幅の変動もわずかです。具体的には、うなり声の周波数が最初に高く、ついで徐々に低くなっていきました。
これらの音を認識するアルゴリズムを開発することで、私たちは92%の鳴き声を正しい感情に分類することに成功しました」
さまざまな条件やライフステージにおいて、ブタの鳴き声を特定の感情に変換できたのは、世界で初めてです。
動物感情の研究は、ここ20年ほどの間に生まれた比較的新しい分野です。
現在ではすでに、家畜の心の健康が全体的な幸福度にとって重要であることは広く受け入れられています。
しかしながら、今日の動物福祉は、おもに家畜の身体的健康に焦点を当てています。
本研究の成果は、動物の感情をアルゴリズムで解読・分類できることを証明し、家畜の動物福祉の向上に向けた重要な一歩です。
「アルゴリズムを訓練するのに十分なより多くのデータがあれば、この手法は他の哺乳類の感情を理解するためにも使えるでしょう」と、ブリーファー氏は指摘します。
家畜の気持ちが分かれば、嫌がるしつけや環境を避け、幸福度を高められるようになるかもしれません。