術後1カ月は安定して機能
重度の心臓病を患っていたベネットさんは、今年1月7日、世界初となるブタの心臓移植を受けました。
移植に用いられたブタ心臓は、人間の免疫系に受け入れられやすいように遺伝子操作されています。
たとえば、ブタのゲノムから、人体の免疫反応を引き起こす3つの遺伝子(臓器拒絶反応の一因となりうる)を取り除き、さらに心臓が人間にとって大きくなりすぎるのを防ぐための遺伝子を不活性化させました。
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ベネットさんは重度の心臓病を抱えていたものの、米国における心臓病の移植待機者は12万人近くもおり、緊急に心臓移植を必要とする状態となっても、移植できるヒト心臓を確保できなかったため、ブタ心臓移植の候補者となりました。
移植手術は見事に成功。人体が臓器を拒絶せず、少なくとも1カ月は安定して機能したことから、医療界のマイルストーンとして大々的に報じられています。
手術を担当したメリーランド大学医療センターのバートリー・グリフィス(Bartley Griffith)医師は「今回の移植手術は、世界中の外科医に重要な情報を提供し、患者たちに新たな救命の可能性を示す貴重な成果となった」と話しています。
一方、ベネットさんの死については「非常に打ちのめされている」とのこと。
「彼は最後まで病気と戦い抜いた勇敢な患者であることを証明しました。ベネットさんは、その勇気と生きることへの確固たる意志で、世界中の何百万人もの人々に知られるようになったのです」
動物から人への臓器移植は以前にも試みられていますが、人体が急速な拒絶反応を示すため、失敗に終わっています。
しかし研究者らは、過去10年の間、人に移植しても安全な臓器をつくるため、遺伝子組み換えブタの生産に取り組んできました。
もし、もっと広い範囲での臓器生産に成功すれば、移植に利用できる臓器の供給が増えるかもしれません。
アメリカ保健資源事業局(HRSA)によれば、現在、10万人以上のアメリカ人が臓器移植の待機リストに載っており、毎年6000人以上が移植を待つ間に亡くなっているという。