誰にでも起こりうる舌の病気「黒毛舌」とは?
男性は3カ月前、脳卒中で左半身に麻痺が生じ、皮膚科を受診した時点でもまだ軽い麻痺が残っていたという。
そのため、男性はピューレ状や液体状の食品を摂取する食事療法を続けていました。
そして脳卒中から約2カ月半後のある日、世話人が男性の口の中を覗くと、舌の表面を覆う「黒い膜」があることに気づいたのです。
症例報告によると、分厚く黒い色素は、舌表面の大部分を覆っており、先端や外縁部、中央の溝には沈着していませんでした。
担当医は、細菌の繁殖状態を調べるため、舌の粘液サンプルを採取し培養しましたが、異常繁殖はまったく見られていません。
研究チームは「これらの所見から、黒毛舌と結論できる」と書いています。
舌の表面には通常「糸状乳頭」という小さな円錐形の隆起が存在しています。
この乳頭はふつう、約1ミリの長さに成長した後、剥離(desquamation)と呼ばれる過程で舌から剥がれ落ちます。
ところが、歯みがきや舌ブラシによる掃除を怠ったり、柔らかいものばかり食べ、固い繊維質の物を食べないと、乳頭が剥離せず成長を続け、最大で約18mmにまで達してしまうのです。
黒毛舌は、このように舌表面にある「糸状乳頭」が、通常のように剥がれ落ちなかったことで発生します。
つまりこの奇病とも思える症状は、口腔内の衛生状態が悪くなれば、誰でも発生リスクが高まるのです。
また、コーヒー、紅茶、アルコール、タバコ製品の過剰摂取、抗生物質のような特定の薬、頭や首の放射線治療、ドライマウスなども、黒毛舌を引き起こす要因に数えられます。
黒い膜が毛髪のように見えるのは、長く伸びた糸状乳頭が、毛髪に含まれるタンパク質の「ケラチン」を生成するためです。
加えて、細菌や食べかすが成長した膜に入り込むことで、黒く変色します。
アメリカ口腔医学アカデミー(AAOM)によると、推定13%の人が黒毛舌を発症しており、高齢者で最もよく見られるという。
幸いなことに、この症状はほとんど無害で、長続きもしません。
この男性の場合、特に痛みや舌の不具合を感じることはなく、簡単な口腔衛生習慣ですぐに治ったといいます。
報告では「患者に適切な洗浄方法をアドバイスすることで、症状は20日後に解消された 」と述べられています。
・柔らかいものばかり食べない
・定期的に歯をみがき、口内を清潔に保つ
この2つを忘れなければ、黒毛舌を発症することはないでしょう。