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ホッキョクグマが南極に行けない理由とは
「クマは主として、北半球を生息地にする生き物である」
そう語るのは、カナダ・アルバータ大学(University of Alberta)の生物学者で、40年近くホッキョクグマを研究しているアンドリュー・デロシェール(Andrew Derocher)氏です。
氏によると、南米に分布するメガネグマ(Tremarctos ornatus)をのぞけば、クマは北半球にしか存在しないという。
その確たる理由はとくにありません。ただ、ある場所で進化する種と、そうでない種がいるというだけです。
「生物地理学は偶然に左右されることだらけです。ある種は新しい場所に進出しますが、ある種はそうしません」
まず押さえておきたいのは、大部分のクマは北半球を起源とすることです。
そして、ホッキョクグマは進化上、比較的若い種に当たります。
ヒグマ(Ursus arctos)の共通祖先から進化したのは、およそ500万〜50万年前の間のいつかだと、デロシェール氏は説明します。
しかし、500万年前の地球はすでに大陸が今日と同じような配置だったため、ホッキョクグマが極から極へ移動する機会はありませんでした。
彼らが誕生して以来、北極と南極が氷(あるいは陸地)でつながっていた時期は一度もないのです。
南極に最も近い大陸は、チリとアルゼンチンを含む南アメリカ大陸の南端です。
そこから南極に行くには、危険なドレーク海峡を横断しなければなりません。
またそのエリアは、南からの冷たい水が北からの温かい水に流れ込むため、強烈な嵐と荒波が発生することで知られています。
北極は冬時期になると、海が凍ってユーラシア大陸やアメリカ大陸と地続きになります。
ところが、南極はどれほど氷が張ろうとも、他の大陸とつながることは決してありません。
つまり、陸から陸へ移動する「橋」がないのです。
そのため、南極には長距離を泳げるクジラやアザラシ、また空を飛んでいける鳥類しかいません。
いくらホッキョクグマの泳ぎが上手くても、南極にたどり着くことは不可能でしょう。
ホッキョクグマにとって南極は「パラダイス」になる
では、もし泳ぎ着いたと想定して、ホッキョクグマは南極で暮らしていけるのでしょうか。
専門家いわく、南極はホッキョクグマにとって「パラダイス」になるという。
ホッキョクグマはおもにアザラシや鳥、その卵を餌にしています。
南極にはアザラシが6種類、ペンギンが5種類いて、ホッキョクグマには食べ物の宝庫です。
しかも、どの南極動物も大型の陸棲捕食者を警戒するような進化はしていません。
つまり、捕食者たるホッキョクグマからすれば、南極は簡単に狩りができる最高の餌場だと言えるのです。
では、温暖化で生息域が奪われつつあるホッキョクグマを、南極に連れていってあげるのはどうでしょうか?
当然、研究者はそんなことは絶対にしてはいけないと話します。
ホッキョクグマの旺盛な食欲と、捕食者に対する南極の動物たちの無知を考慮すれば、南極の生態系がたちまち崩壊してしまうのは目に見えています。
それは私たちが侵略的外来種として、身近でもよく知っている問題でしょう。
結局、ホッキョクグマは北極にいるのが一番なのです。