火の揺れを利用して「アニメーション」を作っていた?
人類は何万年も前から、幾何学模様や動物の絵を描いていました。
ただ、それらの目的が何なのか、はっきりしたことを言うのはとても困難です。
個人の娯楽から仲間とのコミュニケーション、あるいは儀式的な用途まで、あらゆる仮説が立てられてきました。
しかし、19世紀に南フランスで出土した50枚以上の石版が、それまでになかった新しい解釈を与えてくれたのです。
これらの石版は、フランス南部のモンタストリュック(Montastruc)近郊にある旧石器時代の遺跡から発見されたもので、約2万3000年〜1万4000年前の初期の狩猟採集文化に属すると考えられています。
研究チームは、大英博物館に保管されているこれら54枚の石版を借りて、調査を開始しました。
そこには、合計76個の動物彫刻が彫られていて、馬が40個と多く、次いでトナカイが7個、アカシカが6個、他には牛や狼、鳥、人の図像も見られました。
そして、これらの石版のほとんどに高熱による変色の跡があったのです。
これは、これらの石版が火のすぐ側に置かれていたことを意味しています。
また、最も興味深い点は、動物たちの絵が奇妙に重ねられて描かれていることでした。
これは、別々の個体を並べて描いたというより、同じ個体の異なるポーズを重ね合わせたように見えます。
そのため、一つの胴体に頭が2つあったり、手足が余分に生えているように見えたのです。
イメージするなら、パラパラ漫画の各コマを同じページに描いているようなものでしょうか。
「火による変色」「重ね合わされた動物の絵」、この2点から研究チームは、それが単なる静物画ではなく、火に照らされて動いて見える動画として鑑賞されたのではないか、と考えました。
これを検証するべく、動物の絵が施された石版の3Dモデルを作成し、仮想現実ソフトウェアを使って、火明りに照らして観察しました。
すると、揺らめく火の光に照らされて、動物の絵の一部が強調されたり、影の中に隠れたりを繰り返すことで、まるで動いているかのように見えたのです。
もちろん、本物そっくりの動きや現代のアニメーション技術には程遠いですが、それでも古代人を驚嘆させるには十分だったでしょう。
研究主任のアンディ・ニーダム(Andy Needham)氏は「これまで、石版によく見られる変色の跡が謎めいていましたが、本研究の成果から、動く絵を見るために意図的に火の側に置かれた可能性が高い」と指摘。
「食料や水、シェルターを探すのに膨大な時間と労力を費やしていた時代に、このような芸術を創作する能力を見出したことは、先史時代の人々の認知機能がいかに複雑であったかを示唆します。
こうした芸術活動が、何千、何万年もの間、人間を人間たらしめてきたのでしょう」
古代人も休息日には、家族や仲間で寄り集まって焚き火を囲み、アニメーションを楽しんでいたのかもしれません。
アニメーターはいつの時代でも、人々を楽しませる存在だったのでしょう。