頭頂部が「円盤状のシールド」になっていた
この化石は、中国北西部の新疆(しんきょう)ウイグル自治区にある「ジュンガル盆地(Junggar Basin)」で発見されました。
回収されたのは歯を含む頭蓋骨や、そこから背骨につながる4つの頚椎(首の骨)などです。
歯と骨の分析から、この生物は「現生するキリンの近縁種」であることが判明しました。
ただし、キリンの直接の祖先ではなく、キリン科の別の系統に属するとのこと。(ちなみに現生するキリン科の動物は、キリンとオカピの2種のみ)
研究チームは、この生物の学名を「ディスコケリクス・シエジー(Discokeryx xiezhi)」と命名しました。
ディスコは「円盤」、ケリクスは「角(horn)」、シエジーは、中国の伝説上の一角獣「獬豸(かいち)」を意味します。
歯の形状やエナメル質に含まれる同位体を調べた結果、D. シエジーは、開けた土地で草を食べ、季節によって生息地を変える動物であったと結論づけられています。
また、化石の大きさから、体のサイズは現代のヒツジと同じくらいと推定されました。
キリンの長い首は「繁殖競争」によって進化した?
その一方で、頭頂部は円盤状のヘルメットを乗せたような形をしており、首の骨も非常に分厚く、頑丈なつくりになっています。
円盤部は、雄牛など頭突きをする動物が持つ骨の成分と同じ「ケラチン」の保護層で覆われていました。
これは、D. シエジーが激しい頭部の衝撃に適応しており、ライバルのオス同士が頭突きし合っていたことを示します。
研究チームによると、オス同士の頭突きの形質は、メスをめぐる性的な理由によって選択されるという。
そのため、D. シエジーの円盤状の頭蓋骨や短く太い首も、メスをめぐる繁殖競争の中で進化したと考えらえます。
チームはこの説を、現代のキリンにも当てはまるものと考えます。
つまり、キリンの長い首は、メスをめぐるオス同士の衝突の中で有利だから進化したという説です。
ダーウィンの時代から連綿と続く仮説としては、「頭上の食料を得るのに有利だから長い首が選択された」という考えが優勢でした。
確かに、キリンは首の長さを活かして高所にある草木を食べますが、一方で、オス同士がメスをめぐって長い首を激しく打ち付け合う「ネッキング」という行動が知られています。
それもあってか近年では、「キリンの長い首は繁殖競争のために進化した」という説が徐々に有力になってきました。
つまりキリンという動物の祖先は、頭をぶつけて戦い繁殖を行う習性があり、それが円盤状の頭蓋骨や首の長さなど、この戦いに有利な方向への進化を促した可能性が考えられるのです。
そして進化のある時点で、首の長いオスがメスをめぐる争いで優位に立ち、その繁殖的成功によって、ますます長い首が子孫に受け継がれていったのが、現代のキリンかもしれないのです。
ダーウィンの説とどちらが正しいかは未だ決着がついていませんが、今回のD. シエジーの研究結果は、繁殖競争による進化の方を支持しています。
と同時に、研究チームは「キリンの極端な首の長さは、ある程度、両方の進化的圧力によって形成された可能性も十分ある」と述べています。
今後、さらなるキリン科の化石の発掘・研究を進めることで、現代のキリンがどうして今のような姿になったのかが明らかになるでしょう。