卵生動物にも「おへそ」の痕跡はある?
おへその痕跡が見つかったのは、2002年に中国で出土した「プシッタコサウルス (Psittacosaurus)」の化石標本です。
プシッタコサウルスは、白亜紀の前期(約1億3000万~9960万年前)に生息した草食恐竜で、体長は1〜2メートル程になります。
学名にあるプシッタカス(Psittacus)は「オウム」という意味で、その名の通り、オウムのような嘴が特徴的です。
ツノや首回りのフリルはありませんが、本種は最も原始的な角竜下目(トリケラトプスの仲間)に分類されます。
この化石標本は、運よく全身にわたって保存されています。
そこで研究チームは今回、高性能レーザー機器を用いて、標本の詳細な全身イメージを得ることに成功しました。
表皮の鱗からケラチン質の頬骨、尻尾に生える長い毛、肛門、そして全身の皮膚色素パターンまで、くまなく観察できます。
そして2002年の発見以来、まったく気づかれていなかった「おへそ」の痕跡が見つかったのです。
下の画像の黄色の点線で示した部分が、おへそに当たります。
これは、恐竜におへそがあったことを示す初の証拠となります。
ただし、プシッタコサウルスの化石に見つかったおへそは、縦線のようなものであり、わたし達人間をベースに思い浮かべるおへそとはちょっとイメージが異なるかもしれません。
「へそ(臍)」とは、定義上、腹部の真ん中にある小さな凹みのことであり、胎生の生物においては臍帯(へその緒)の取れた跡を指します。
しかし、プシッタコサウルスは卵生であり、へその緒はありませんでした。
その代わり、卵内で育つ生物のお腹には「ヨークサック(卵黄嚢・らんおうのう)」という栄養の入った袋のような器官が付いています。
これは、孵化したばかりのヒナやカメ、ヘビによく見られる卵の黄身のようなもので、卵生の赤ちゃんはここから栄養補給をします。
ヨークサックは、栄養が完全に吸収されると自然に消えたり、乾燥してポロっと取れたりします。
そしてその取れた部分には縦線の跡が残り、これが爬虫類におけるおへそとなるのです。
これは正確には「臍孔(さいこう)」と呼ばれます。しかし、研究チームは愛着を込めて「おへそ(belly button)」と表現しています。
興味深いのは、このプシッタコサウルスの標本が、成熟期に入っていたと見られるにもかかわらず、臍孔を残していたことです。
臍孔はふつう、孵化後の数日〜数週間で徐々に消えていき、成熟期に達すると、ほとんど跡形もなく消えています。
カワラバト(Columba livia)など、後半生まで臍孔を残す卵生動物もいるようですが、きわめて稀な例です。
研究主任のマイケル・ピットマン(Michael Pittman)氏は「このプシッタコサウルスは、ほぼ性的成熟に達していたと考えられていることから、おへその痕跡は生涯を通じて残存した可能性が高い」と述べています。
これは珍しいとはいっても、ありえない話しではないようです。
ヘビやトカゲの成熟個体にも、臍孔がシワや鱗の変形として目視できるケースがあるため、同じ爬虫類のプシッタコサウルスの成熟個体に臍孔が残っていたとしても、不思議ではありません。
いずれにせよ、おへそが保存された恐竜の化石は世界で初めての発見です。
プシッタコサウルスも1億年も経ってから大勢にまじまじとおへそを見られるとは思っていなかったでしょう。