アサシンの語源は「ハシシ(麻薬)」から来ている?
噂というのは、人から人へ広まるごとに尾びれが付いていくものです。
十字軍の間でも、フィダーイーについて、あらぬ噂がささやかれるようになります。
そもそも、戦闘において両軍同士が真っ向からぶつかることを当然とする西洋人は、フィダーイーの行う暗殺のような隠密戦術が理解できませんでした。
「そんなことができるのは、彼らがハシシ(麻薬)を吸って、気が狂っているからに違いない」
そう彼らは決めつけたのです。
そこから、フィダーイーの戦士はハシシを与えられ、その陶酔状態を利用し、要人暗殺の刺客に仕立て上げられている、という伝承が広まるようになりました。
そして、ハシシを常用する者を意味する「ハシシン」が、西洋的な発音の中で「アサシン」へと変化したわけです。
この話は、マルコポーロの『東方見聞録』にも記載されている有名な逸話ですが、歴史家の多くは「西洋人の考えた”もっともらしい仮説”であり、史実とは異なるだろう」との見解を述べています。
ちなみに、アサシン(暗殺教団)を生み出したニザール派は、13世紀半ばに、モンゴル帝国の襲来によって拠点を失い、生き残った者は散り散りに去っていきました。
ニザール派は現在もインドやパキスタン、シリアなどに散在しており、少数のコミュニティが存続しています。
しかし、彼らが暗殺を手がけることは、おそらく二度とないでしょう。