幹細胞のみを材料にして生きている人工合成胚の作成に成功!
近年の急速な幹細胞技術の進歩により、幹細胞を材料にして脳・心臓・肝臓・骨・皮膚・血液などあらゆる体のパーツを人工的に作れるようになってきました。
胚性幹細胞(ES細胞)や多能性幹細胞(iPS細胞)などに代表される幹細胞には体のあらゆる細胞に変化できる能力があるため、適切な変化を起こすことができれば、望む臓器を培養することが可能になります。
たとえば以前に行われた研究ではヒト多能性幹細胞(iPS細胞)を材料にして人工培養脳(脳オルガノイド)を作成し、さらに適切な誘導を行うことで目を生やすことに成功しています。
しかし現在のところ製造できる臓器は移植に適した自然な形とはほど遠く、不規則な組織を形成する傾向にありました。
原因は臓器が単独で培養されている点にありました。
私たちの臓器が正しく形成されるには、他の臓器とのコミュニケーションが行われ適切な信号が起こられてくる必要がありますが、単独培養ではそれができなかったのです。
そこで今回、ワイツマン研究所の研究者たちは、3種類の胚性幹細胞(ES細胞)を組み合わせることで、脳や内臓といった特定のパーツではなく、胚全体を人工合成することにしました。
胚全体を人工的に作ることができれば、内部で作られる臓器たちも自然な胚と同じようにコミュニケーションしながら、自然な形へと成長していくことができるからです。
実験にあたってはまず、マウス胚から摘出された胚性幹細胞(ES細胞)が培養・増殖され、大本の材料となりました。
次に研究者たちは材料となる幹細胞を3グループにわけて、1番目のグループには胎盤になるような調整、2番目のグループはそのまま万能性を維持し、3番目のグループは卵黄嚢になるような調整を行い、3種の細胞を混ぜ合わせました。
すると3種の細胞たちは自然に細胞塊を作り始め、そのうちの約0.5%(形成された1万個の細胞塊のうちの約50個)が胚のような構造に変化していることが判明。
(※1番目と3番目の細胞が胎児の外側で胎盤と卵黄嚢を形成し、2番目の細胞が胎児の本体となっていました)
これら50個の細胞塊は最初は球状だったものの、人工子宮で培養されているうちに次第に円筒型に成長し、6日目には中枢神経が現れ始めて脳が形成され、8日目までには腸管や血管、鼓動する心臓があらわれはじめ、8.5日目まで正常な発達を続けました。
(※マウスの妊娠期間は約20日です)
またこの50個の内部で働いている遺伝子を確かめたところ、天然の胚と95%の類似性があり、内部の臓器も単に形だけではなく、正常な機能を持つことが示されました。
この結果は、人工的に培養された3種類の細胞を合成することで、人工的な胚を作れることを示します。
研究者たちは「私たちは胚をゼロから生成し、潜在的に生きた生物を(人工的に)生成できる領域に踏む込んだ」と述べています。
しかし同時に、いくつかの課題も明らかになりました。
次のページでは、この研究がかかえる技術的な面と倫理的な面での問題点を紹介したいと思います。