スピネルの数奇な歴史、そして物語に与えた影響
ルビーと間違われてきた、スピネルの歴史
スピネルは、4大宝石の一つとして名高い「ルビー」と長い間、混同されてきました。
たとえば、かつての中央アジア・東南アジアの鉱山では巨大なスピネルが多く産出していたため、そこで採れたスピネルは「バラス・ルビー」と呼ばれてきました。
なぜ間違われてきたのかというと、ルビーとレッドスピネルは色合いが似ているだけではなく、同じ産地で採れることが多かったからです。
また、傷つきにくさを示すモース硬度も、ルビーは9、スピネルは7.5から8と近い値を示します。
加えて、昔は組成や成分などで宝石を見分けられるほど科学技術は発達しておらず、宝石の区別はもっぱら目で見て区別するほかありませんでした。
1783年にフランスの鉱物学者であるロメ・ド・リールがルビー(コランダム)とレッドスピネルは別の鉱物・宝石であると発見し、ようやく両者は別々になったのです。
ルビーだと思われていたけれど実はスピネルだった、という話で有名なものに、大英帝国王冠に飾られた「黒太子のルビー」や、イギリス王室に保管されている「ティムール・ルビー」などがあります。
1つの宝石して認められたスピネル。でも、今度は…
晴れて1つの宝石として認知されたスピネルですが、受難はまだまだ続きます。
ルビーとレッドスピネルが別の宝石であることが判明したことで、今度はレッドスピネルが「ルビーのまがい物」という烙印を押されてしまい、大きく価値が下がってしまったのです。
19世紀に書かれた書物では、当時のレッドスピネルはルビーの半分程度の価格で取引されていたという記録が残っています。
現代においても、レッドスピネルの価値はきちんと高まったとは言い切れない部分があると思います。
筆者も、レッドスピネルの上質な原石が購入できる価格で、あまり質が高いとはいえないルビーの原石が販売されているのを見かけたことがあります。
お店にもよるところはあるのでしょうが、スピネルがルビーのまがい物という認識は、まだ完全には払拭されていないのではないでしょうか。
安価に手に入るからこその魅力
しかしながら、必ずしも低く評価されていることが悪いわけではないと、筆者は考えます。
なぜなら「ルビーに比べて価値が低く見られがち」と言うことは、逆を言えば「魅力的なスピネルを手に入れやすい」ということでもあるからです。
スピネルの価値が高まることによってスピネルの価格が上がってしまうことは、嬉しい反面「魅力的なスピネルとの出会いのチャンスを逃してしまう方がいらっしゃるのでは?」という、複雑な気持ちでもあります。
とはいえ「スピネルにしかない魅力をあなたに語りたい!」と思ったため、このような記事を執筆させていただきました。
物語に影響を与えてきたスピネル
そんな受難の日々を送ってきたスピネルですが、決して悪い評価ばかりを受け続けてきたわけではありません。
色の美しさや結晶の形の神秘性、数奇な歴史を持つスピネルは、多くの人々の興味を引き、時には物語に影響を与えることもありました。
スピネル・サン
有名な漫画「カードキャプターさくら(CCさくら)」に、「スピネル・サン」というキャラクターが「ルビー・ムーン」というキャラクターとセットで登場します。
スピネルと聞いて連想されやすいレッドスピネルではなく、あえて青系統の色をしたネコ型(真の姿は獣型)のキャラクターとして描かれているのが印象的です。
恥ずかしながら、筆者は本物のスピネルについて知るまでは、スピネルは青い色のものが主流であると思いこんでいました。
ちなみに、筆者は「スピネル」と「ルビー」という組み合わせは、ルビーと混同されたスピネルの歴史に影響を受けているのではないかと推測しています。
ルビーの影に隠れがちだったスピネルに、自ら光り輝く「太陽」の名を付けられていることも、どこか示唆的なものを感じられますね。
「宝石の国」には登場しているの?
「宝石の国」には、スピネルは2022年8月段階では登場していません。
「宝石の国」は、それぞれの宝石の鉱物的特徴や歴史などを、見事にキャラクターとして昇華している作品です。
スピネルはルビーに間違われ、その違いが判明した後も比較され続けた歴史があるので、もし登場するとしたら、それを反映したキャラクターになるのではないでしょうか。
「宝石の国」はしばらく休載していたのですが、2022年6月から連載が再開したので、スピネルファンの方は彼が登場するかどうか楽しみですね。
「スピネルにしかない」魅力を、あなたにも知ってほしい
当記事でご紹介させていただいたとおり、スピネルは決して「ルビーのまがい物」ではありません。
しかしながら、その数奇な歴史が多くの人々にインスピレーションを与えていることも確かです。
もちろん「ルビーより安価に手に入り、美しい」という理由で、スピネルを選ばれることも十分に良いことだと思います。
しかしながら、スピネルにしかない魅力を知っていただくことで「スピネルを選んでよかった」と思っていただけるようになれば、筆者はとても嬉しいです。