2000年以降の目撃例がほぼゼロに。中国では絶滅か
ジュゴン(学名:Dugong dugon)は、ジュゴン目ジュゴン科ジュゴン属に分類される海洋哺乳類で、この1種のみでジュゴン科を構成しています。
東アフリカのモザンビーク北部〜オーストラリア北東のバヌアツに至る熱帯域に広く分布するものの、近年は個体数の減少が激しく、「絶滅危惧種(VU、危急)」にも指定されています。
ジュゴンはふくよかな灰色の体に、幅広に垂れ下がった顔、イルカのような平べったいヒレと、海草を食むための柔軟な口を持っています。
体長は最大で4メートル、体重は400キロ以上になるという。
また、海洋哺乳類としては唯一、海草だけで生活する菜食主義です。
ちなみに、よく似た生物としてマナティーの名前が挙げられますが、ジュゴンが海水に生息するのに対し、マナティーは淡水に適応しています。
さて、中国海域におけるジュゴンは、何百年も前から頻繁に姿が確認されてきましたが、その記録は1960年頃をピークに下降し、1975年以降は急速に減少しています。
そしてついに2000年代に入ると、科学者による発見例はゼロにまで落ち込み、地元漁師でさえ2008年を最後にジュゴンを目撃していません。
そこで中国とイギリスの共同研究チームは、中国海域における過去のジュゴン目撃例とその分布について、入手可能なすべての履歴データを徹底的に洗い出し、加えて、中国4省の漁村にて海洋資源利用者(主に漁師)を対象に大規模な聞き取り調査を行いました。
その結果、2000年以降、中国海域でのジュゴンの(科学的エビデンスに基づく)野外観察記録は一件もありませんでした。
非公開の記録によると、1958年〜1976年の間に、257頭のジュゴンが漁獲されていましたが、これ以降は、漁師による偶然の目撃と漁網への混獲が数件ほど報告されているのみです。
そして、漁村での回答者788人(平均年齢51歳、男性95%)のうち、過去にジュゴンを目撃したと報告したのは37人(5%)で、その最終目撃日は平均23.2年前でした。
さらに、過去5年以内に目撃したと答えた人はわずか3人で、それも写真や映像などの科学的エビデンスは存在しません。
この結果を受け、研究チームは「ここ数十年の間に、中国海域におけるジュゴンは急激な個体数の減少を経験し、2022年現在では、すでに絶滅していると結論せざるを得ない」と判断しました。
続けて、「現状では、この劇的な個体数の減少を食い止めたり、逆転させられる可能性は極めて低い」とも述べています。
ジュゴンの減少は、人間による乱獲や漁網への混獲、および生息域である沿岸環境の悪化が主な原因です。
海洋環境の破壊や汚染は世界的に増加傾向にあり、簡単に止められるようなものではなくなっています。
研究主任の一人であるサミュエル・ターベイ(Samuel Turvey)氏は、今回の結果について、「効果的な保護活動が展開される前に、ある特定生物の絶滅が起こりうることを痛感させる警鐘にもなった」と述べました。
現在、ジュゴンの数は世界全体で10万頭程度とされており、その多くはオーストラリア沿岸(8万頭)に住んでいます。
しかし、このまま海洋の破壊が続くと、これらのジュゴンも無事ではいられないでしょう。