火星で見られる日食は、地球とまったく違う
まずは、パーサヴィアランスが撮影した実際の映像を見てみましょう。
これは、火星の2つある衛星のうちの一つ「フォボス」が、太陽の前を約40秒かけて横切っていく様子です。
太陽の右上から左下に向かっていくフォボスは、月と違って、かなりいびつな形をしているのがわかるでしょう。
平均直径22キロのフォボスは、火星の周りを約7.65時間という猛スピードで一周しています。
月が27日かけて地球を一周していることを考えると、その速さが実感できるでしょう。
またフォボスは、月よりはるかに小さい上に、火星からの”見かけの大きさ”が太陽よりずっと小さいため、太陽の前を横切っても、そのすべてを隠し切ることはありません。
こうした特徴から、火星では、地球とまったく異なる日食が見られるのです。
さらに、火星のもう一つの衛星「ダイモス」が、太陽面を横切る日食の撮影にも成功しています。
こちらは、2020年3月28日に、火星探査車「キュリオシティ(Curiosity)」が撮影した映像です。
平均直径12キロのダイモスは、フォボスよりさらに小さく、火星の周りを約30.35時間で一周しています。
ダイモスになると、火星から見える日食は、もはやホクロ程度にしか見えず、太陽光もほとんど遮られません。
一方で、地球から見える日食は、月の方が太陽よりはるかに小さいにもかかわらず、太陽の大部分(あるいは全部)を隠し切っています。
これは、奇妙な偶然の一致によるものです。
月のサイズは太陽より約400倍も小さいのですが、太陽より約400倍も地球に近い場所にあります。
それにより、地上から見える月と太陽は、見かけの直径がほぼ同じになるのです。
たとえば、家のベランダから見える巨大なビルでも、片目を閉じて、開いている目の前に人差し指を通せば、ビルはすっぽりと隠れてしまいます。
あとは、月と地球との距離に応じて、太陽の一部が隠れる「金環日食」か、全部が隠れる「皆既日食」かにわかれます。
(※ 月が地球をまわる公転軌道と、地球が太陽をまわる公転軌道は、完全な円ではなく楕円形になっているため、地球と月、地球と太陽の距離は、常に変化しています)
さらに、私たち人類が誕生するタイミングもよかったようです。
現在、月は一年に約3.82センチの割合で地球から遠ざかっており、あと6億年も経つと、皆既日食は見れなくなります。
これは、火星でも同じことのようです。
しかし、火星衛星のフォボスは月と違って、火星側にどんどん近づいていき、3000万〜5000万年後には、火星の表面に衝突する可能性があるようです。
あるいは、火星の重力に引き裂かれて、その周囲を漂う残骸のリング(環)を形成するとも予測されています。