異なる種が同じ精神構造を持っているのは「よくある」こと
本格的な研究内容に触れる前に、少しでも「オカルティック」な雰囲気を除去したいと思います。
ここまで読み進めてくれた人の中にも「種を超えた精神構造」といった、いかにもなフレーズに怪しさを感じている人は多いでしょう。
ですが少し視野を広げれば、実はあたりまえな話でもあるのです。
たとえば私たち人間は、犬や猫、鳥や魚など、他の種族の恐怖や怒りを「認識」することが可能です。
これは恐怖や怒りなどの原始的感情が「種を超えた精神構造」であるためと言えるでしょう。
私たち人間は高度な知能を持っていますが、基礎となる恐怖や怒りなどの精神構造は他種族と共有しているのです。
では「種を超えた精神構造」は怒りや恐怖といった感情に限定されるものなのでしょうか?
もし限定されないのならば、人間の行動・精神・文化の中にしばしば散見される「偏り」のいくつかも、種を超えた精神構造が根底に存在する可能性があるはずです。
そのため近年では「人間だけのもの」と思われてきたさまざまな概念が他の動物の精神構造にも存在するかどうかが確かめられるようになってきました。
なかでも特に、心の数直線(すうちょくせん)は盛んな議論の対象となっています。
私たち人間は統計的にみれば、小さい数を左側、大きい数値を右側に関連付ける傾向があることが知られています。
心の数直線を巡る議論では、この「人間だけのもの」と考えられてきた精神構造(心の数直線)が、他の動物種にも存在するかどうかが問題になっています。
この考えが提唱されはじめたころは、相当に叩かれました。
『人間の習慣は文化によって支配されるものである』
『アラビア語など右から数字を書いていく文化などあてはまらないものもある』
などなど社会科学者・哲学者・宗教家そして脳科学者も含む各方面から集中砲火に晒されていました。
しかし研究が進むにつれ、心の数直線が文化を学ぶ前の人間の赤ちゃんだけでなく、サル、ニワトリなど数を認識できる他種族にも存在していることが明らかになってきました。
この結果は、小さい数を左側、大きい数を右側とする心の数直線が文化や学習によらない先天的な精神構造にある可能性を示しています。
しかし数を認識できる動物は脊椎動物だけではありません。
近年の研究では、無脊椎動物であるミツバチにも数を認識し「0」の概念を構築できることがわかってきました。
そこで今回、パドヴァ大学の研究者たちは、ミツバチにも人間やサルやニワトリと同じように、小さい数を左側、大きい数を右側に関連付ける精神構造(心の数直線)があるかどうかを確かめることにしました。
もしミツバチのシンプルな脳にも人間と同じ心の数直線がプレインストールされているならば、地球に生きる動物たちの心は思っていたよりもずっと同質であると言えるでしょう。
しかし、研究者たちはいったいどんな方法でミツバチの心の数直線を調べたのでしょうか?
意外にも、その方法は極めてシンプルでした。