7つの最悪のウイルス
エボラウイルス
このウイルスは血液や唾液など体液によって感染します。
突発的に発症し、重度のインフルエンザのような症状が出ます。
発熱や頭痛、筋肉痛などが生じ、嘔吐や下痢、吐血、下血などの症状へと進行するのです。
出血の原因は、エボラウイルスの表面に見られる「エボラウイルスの糖タンパク質」です。
これは細胞を破壊する性質をもっており、血管の細胞に付着することで血管透過性(血管と周辺組織の間で起こる水分や栄養分の移動)を高めます。
これにより血管から血液が流れ出し、血液凝固異常が発生するのです。
症状が進むにつれて出血するようになり、最終的には出血性ショックから死に至ります。
1976年、スーダン共和国とコンゴ民主共和国で同時に人間への感染が確認されました。
エボラウイルスの株によって致死率が異なっており、ブンディブギョ株で最大25%、ザイール株では最大90%とも言われています。
過去最大のエボラ出血熱は2014年初めの西アフリカで発生し、解決されるまでの2年間で1万人以上の命が奪われました。
2020年12月にはアメリカ食品医薬品局(FDA)によってワクチンが承認されており、2021年1月からは世界的な備蓄が可能になったようです。
狂犬病ウイルス
狂犬病ウイルスはイヌだけでなく、人間を含むすべての哺乳類に感染し、「狂犬病」を発症させます。
一般的には、感染した動物の咬み傷などから伝染するケースが多く、発熱や頭痛などの風邪のような症状で始まります。
その後は知覚異常や痙攣、麻痺、興奮や錯乱などが生じ、やがて生命維持に必要な脳の中枢神経が破壊されて死亡します。
感染者が感覚や精神に異常をきたすのは、狂犬病ウイルスに脳で効率よく増殖する性質があるからです。
ウイルスは咬まれた部位から神経に沿って脊椎に移動。
脳に到達すると、大脳皮質、海馬、小脳などを破壊しながら増殖していくのです。
発症後の致死率は99%であり、毎年5万9000人が狂犬病で亡くなっています。
しかしイヌの予防接種や、噛まれた後にすぐワクチン接種を受けることで発症を未然に防ぐことができます。
狂犬病ウイルスは、「治療をしなければほぼ100%死ぬウイルス」として、現在でも脅威的な存在です。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
HIVは人の免疫細胞に感染して破壊し、「後天性免疫不全症候群(エイズ)」を発症させます。
感染してから5~10年は症状がない潜伏期間に入り、その後は倦怠感、慢性的な下痢、極度の疲労などが発生。
免疫力の低下によりさまざまな感染症を患ったり、悪性腫瘍、神経障害に苦しんだりします。
免疫力が低下するのは、HIVが免疫機能を担うT細胞を破壊し、その数を減らすからです。
特にT細胞の中でも、白血球(免疫機能を担う)の機能を助け、司令塔のような働きをする「ヘルパーT細胞」の数を減らしてしまうため、感染者の免疫機能は壊滅的な影響を受けてしまうのです。
主な感染経路は性行為、血液、母子感染であり、現代社会では最も致命的なウイルスとも言われています。
1980年代初頭に認識されて以来、推定3200万人がHIVによって死亡しています。
WHOによると、アフリカでは成人の25人に1人がHIV陽性者であり、世界のHIV陽性者の3分の2がその地域にいることになります。
現在では、強力な抗HIV薬により何年間も生きられるようになっているものの、2021年には世界の65万人がHIV関連で亡くなりました。
天然痘ウイルス
天然痘ウイルスは人間にのみ感染するDNAウイルスの一種であり、感染した人に「天然痘」を発症させます。
主な感染経路は、飛沫感染、皮膚病変との接触であり、発症することで急激な発熱や頭痛、悪寒に襲われ、全身に膿疱(のうほう:膿を含んだ水疱)ができます。
感染後リンパ節に入り込んだウイルスは、血流にのって臓器を含む体中で増殖。
特に皮膚細胞を攻撃する傾向があり、皮膚に到達したウイルスが特徴的な膿疱を生じさせます。
時には、ウイルスが眼球に到達するケースもあるのだとか。
致死率は30%と高く、生存できたとしても失明などの後遺症に苦しめられることが多いようです。
天然痘ウイルスは何千年も人類を苦しめてきましたが、1980年には、WHOが「世界から天然痘はなくなった」と宣言。
「唯一根絶に成功した感染症」とも言われています。
ちなみに、20世紀だけでも3億人が天然痘ウイルスで死亡しており、人類は大きな勝利を手にしたことになります。
インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスは人間に感染して「インフルエンザ」を発症させ、高熱、咳、嘔吐、下痢などを引き起こします。
多くの場合、上気道(鼻からのど)粘膜から侵入したウイルスが細胞を乗っ取ります。
乗っ取られた細胞は本来の働きを忘れ、ウイルスを複製し始めます。
こうして最初は1個だったウイルスが24時間後には100万個にまで増殖するのです。
そして体は、膨大なウイルスと戦うために高熱を生じさせます。
悪寒を感じて体がガタガタと震えるのは、全身の骨格筋を震わせて熱を生成しているからです。
死亡率は低く、死者は毎年10万人中1.8人程度だと言われています。
しかし多くの人に感染するため、世界的に見ても主要な死因の1つとして数えられます。
実際、インフルエンザが流行する季節では、世界中で最大65万人がインフルエンザで亡くなってしまうのだとか。
また時折、新型のインフルエンザが登場し、世界中で猛威を振るうこともあります。
例えば、1918年に始まった「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザでは、世界人口の3分の1が感染し、推定5000万人が死亡したと言われています。
デングウイルス
デングウイルスは、蚊の吸血活動を通じて人間に感染し、「デング熱」を発症させます。
デング熱にかかると、急な発熱、頭痛、関節痛、嘔吐などが出現。
死亡率は1%と他のウイルスに比べて低いですが、まれに重症化してデング出血熱を引き起こすこともあります。
その場合は、適切な医療処置を施さないと死亡率20~40%と大きく跳ね上がります。
デングウイルスは、皮膚から侵入すると白血球と結合。体内を移動しながら細胞内で増殖していきます。
これがインフルエンザのような症状を引き起こすようです。
ただし重症化した場合は、多くの臓器でもウイルスが爆発的に増殖。さまざまな機能障害を起こし、合併症や血液凝固異常につながります。
デング熱は1950年代にフィリピンとタイで最初に発生しており、WHOによると、現在では年間1億~4億人が感染しているとのこと。
地球上で最も人を殺している生き物が「蚊」なのも、蚊がデング熱などの感染経路になっているからです。
デング熱は主に熱帯・亜熱帯地域で見られますが、気候変動によりそこに生息する蚊が他の地域にも広まれば、さらに多くの人がデングウイルスの餌食になると考えられます。
SARSコロナウイルス2(SARS-COV-2)
最期は言わずもがな、現在進行系で人類を苦しめているもっとも有名なウイルス「SARS-COV-2」です。
このウイルスに感染すると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こします。
主な症状としては発熱や咳、味覚・嗅覚の消失などがあり、重篤化すると、呼吸困難、胸痛、発話障害、運動障害などが発生します。
インフルエンザウイルスが上気道粘膜の細胞で増殖するのに対して、SARS-CoV-2は、上気道だけでなく肺の上皮細胞でも増殖すると考えられています。
つまり新型コロナウイルスは、鼻から肺に至る呼吸器系全体における感染症だと言えます。
主な感染経路は飛沫感染であり、2019年12月に中国の武漢市で初めて確認されて以来、世界中で爆発的に広がりました。
2022年10月の時点では、世界中で少なくとも累計6億2600万人が感染しており、657万人以上が亡くなっています。
感染しても症状の程度がさまざまであり、無症状や軽症の人もいれば、重篤化して死亡する人もいます。
そのため、正確な感染致死率を推定することは難しいとされています。
ただし高齢者の死亡率は高く、ある研究では90歳以上の感染者の20%が死亡したと推定されています。
現在ではワクチンが承認されており、重篤化と死亡に至る確率を大きく減少させられます。
ここまでで7つの凶悪な殺人ウイルスを紹介してきました。
もちろん、これら以外にも人類を苦しめてきたウイルスは数多く存在しており、今後も私たちを苦しめるのでしょう。
ウイルスは自らの力で増殖する力がなく、生物の細胞を乗っ取ってその機能を奪うことで初めて数を増やすことができる、生物種に数えて良いのかもよくわからないプログラムのような存在です。
しかし、非常に成功している種であることは確かであり、今後も人類と長い戦いを繰り広げていくことになるでしょう。
彼らに対処するためには、ときに過去を振り返り歴史に学ぶことも大切かもしれません。