AIとのコラボで新たな「芸術の窓」が開かれる?
AIの言語芸術はまだ未成熟であるものの、近年、自然言語処理や自然言語生成の技術が進歩しており、それに合わせて、AIが作った詩と人間が作った詩を比較評価したり、2つの作品を区別できるかの研究が行われ始めています。
その中で研究チームは今回、世界最短の詩である「俳句」に焦点を当てました。
俳句は、これまでの研究で使われた詩と比べて単語数が少ない上に、読み手がイメージを補完して解釈するというユニークな特徴を持ちます。
この特徴からチームは「AIが作った俳句でも、読み手の解釈により高い評価を得られるのではないか」と考えました。
AIの創作物は一般に、「AIの創作に人間が介入することなく完結するもの(HOTL:Human out of the loop)」と「AIの創作に何らかの形で人間が関わるもの(HITL:Human in the loop)」の2つに分けられます。
チームはこの2つを比較しながら、AIの創造性、AI芸術に対する人々の潜在的な価値観、およびAIと人間が協力することで得られる創作の可能性を検討しました。
最も美しいと評価された俳句は?
実験では385名の参加者をつのり、ウェブ上でできる次の2つの課題に取り組んでもらいました。
1つは、俳句を読んで、その美しさや芸術性を評価する課題で、もう1つは、提示された俳句について、人間が作ったものかAIが作ったものかを当ててもらう課題です。
ここでは『歳時記』の中から選んだ40句と、HOTLとHITLで創作された40句(それぞれ20句)をランダムに提示しました。
HOTLはAIが作った中からランダムに選ばれた俳句を指し、HITLは(参加者とは別の)3名の評価者が「特に美しく、芸術性が高い」として選定したAI俳句を指します。
つまり、『歳時記』=人間の作った俳句、HOTL=AIの作った俳句、HITL=AIと人間が共同した俳句です。
1つ目の課題の結果、参加者が最も美しいと評価したのはAIと人間の共作(HITL)俳句で、驚くことに『歳時記』とAI作品(HOTL)は評価が同等でした。
また2つ目の課題では、参加者は人間の作った俳句とAIの作った俳句を見分けることができませんでした。
これらは、AIの言語芸術が人間の創造性に匹敵しつつあること、そして、AIと人間が共同することで従来よりも創造的な芸術品を生み出し得ることを示唆しています。
さらに興味深いことに、評価者が「AIが作った」と答えた俳句ほど、美しさや芸術性の評価が低くなることがわかりました。
これは「AIが作ったものは劣っており、人間が作ったものは優れている」というバイアスが働いていることを意味します。
今回得られた「AIが作った俳句を人間が選んだときに最も美しさの評価が高くなる」という結果は、芸術領域におけるAIの価値を認めるとともに、AIと人間のコラボレーションが新たな創作の可能性を開き得ることを示します。
研究者は、この成果について次のようにコメントしました。
「AIが作って人間が選んだ俳句がプロの俳人が作った俳句すらも凌駕した今回の結果を見たとき、とても感動しました。アーティストの方からすると、このような結果は脅威に感じられるかもしれませんが、AIは敵というわけではなく、自分たちの生活をさらに豊かに面白くしてくれるのではないかと考えています」
一方で、本研究の課題の一つは、385名の評価者がすべて俳句の素人であったことです。
俳人や熟達者は、素人とはまったく異なる視点で俳句を鑑賞していると思われます。
そこで今後は、プロの俳人や熟達者に協力してもらうことで、AIの言語芸術に関する理解を深めていく予定です。