浮くうんちと沈むうんちがある理由を科学的に解明!
かつて、うんちの浮沈は脂肪分の量によって決まると考えられていました。
確かに脂肪は水よりも比重が軽いため、うんちに含まれる脂肪が多ければ、水に浮かせることが可能になります。
しかし脂肪を多く含む「脂肪便」の多くは、脂肪をとりすぎたり、膵臓がんなどが原因で膵臓から分泌される脂肪分解酵素が出にくくなるために発生します。
一方、全く健康であっても10~15%の人は常に浮くうんちを生成することが知られており、健康問題とうんち浮沈の実態は矛盾していました。
ですが今から50年ほど前の1972年、ミネソタ大学病院の2人の医師の何気ない会話がキッカケで事態は大きく動き始めます。
1970年代の初頭、ミネソタ大学病院の消化器系内科医であるドゥエイン氏は同僚であるレヴィット氏に「自分のうんちが常に浮いている」と告白しました。
以前からうんちの浮沈に興味を持っていた2人は早速調査をはじめることになり、早くも2時間後にはドゥエイン氏から、浮くうんちのサンプルが提供されました。
加えて33人の健康な協力者から糞便サンプル(9人が浮くうんち、24人が沈むうんち)を取得。
そして数々の調査を行った結果、うんちの浮沈は脂肪の量ではなく、うんちの中に囚われているメタンガスの量によって決まることが明らかになりました。
彼らの作成した研究論文はその後、5大医学雑誌の1つ『New England Journal of Medicine』に掲載され、大きな反響を呼ぶことになります。
しかし彼らの研究ではメタンガスの出所は腸内細菌であろうと予測が行われたのみであり、正確にガスの生産主の存在を特定されないまま、月日が流れていきました。
事態が再び動き出したのは50年後、メイヨークリニックの研究者たちはある日、普通のマウスのうんちは浮くのに、腸内に菌がいない無菌マウスのうんちが沈むことに気付きました。
興味をひかれた研究者たちは調査を進め、普通のマウスの糞便に人間の若い女性から採取した腸内細菌を混ぜ込んだモノを、無菌マウスの胃に注射してみることにしました。
すると、無菌マウスのうんちが浮くようになることが判明します。
この結果は、うんちの浮沈が腸内細菌の有無によって決定付けられていることを明確に示していました。
また糞便に含まれる気体成分を分析したところ、浮いたうんちには、メタンガスに加えて水素ガスが含まれていることが判明します。
さらに浮いたうんちには、メタンガスを生成するBacteroides ovatusや水素ガスを生成するBacteroides fragilisのようなガス生成菌が多く存在していました。
これらの結果は、うんちの浮沈は腸内細菌が発生させるメタンガスなどの量によって決定されていることを示します。
研究者たちも今回の結果について「腸内細菌の存在がガス生成を通じて、うんちの浮沈を支配していることを決定的に実証した」と述べています。
研究者たちは今後も研究を続け、うんちを浮かせるために最低限必要なガス比率のしきい値や、うんちを浮かせるガスを作る腸内細菌が健康とどのようにかかわるかを調べていく、とのこと。