発射された以上に舌は喉奥に引っ込んでいた!
生物学者らは1827年の時点で、カエルの摂食行動に関心を抱き、研究を始めていました。
しかし、発射されるカエルの舌を肉眼で追うのは難しく、そのメカニズムの理解が進んだのは、20世紀半ばに高速度カメラが開発されてからです。
それでも、口内に引き戻された後の舌の動きは推測に頼る他なく、舌がどこまで引き戻されているのか、どうやって粘着性のある舌から獲物を剥がしているのかなど、疑問が残されていました。
本研究主任のレイチェル・キーフ(Rachel Keeffe)氏も「カエルがいかに舌を伸ばして、獲物を捕らえるかについては多くを知っていましたが、口を閉じた後に起こっていることは基本的に謎でした」と話しています。
そこで研究チームは、オオヒキガエルの舌や口内の各所に金属製のビーズマーカーを取り付け、高速度X線カメラを用いて、舌が引き戻された後に何が起こっているかを調べました。
実験では、透明な箱に体長15センチのオオヒキガエルを入れ、目の前のコオロギを繰り返し食べさせて、その様子を撮影しています。
それらの映像を分析してみると、チームが予想もしなかったメカニズムが浮かび上がってきました。
こちらがX線撮影された舌の動きの映像です。
まず、ヒキガエルの舌の発射距離は平均4.1センチメートルでしたが、なんと引き戻された舌の後退距離は平均4.5センチメートルとそれを上回っていたのです。
ヒトの場合だと、戻した舌は口内で落ち着きますが、ヒキガエルの舌はまるまる喉の奥に引き込まれ、ほとんど心臓部に達していました。
こちらは、カエルが舌を射出してから引き戻すまでのプロセスを各ポイントごとに図解したものです。
(上列は俯瞰で見た舌の動きを、下列は横から見た舌の動きを示しています)
舌は喉奥に引き込まれた直後、頭蓋骨の方に少しずり上げられ、口蓋(口内の天井)にある隆起部分に押し付けられることで、舌に粘着した獲物が引き剥がされていました。
その後、獲物は食道に落ちて体内に飲み込まれ、舌は元の定位置へと戻っています。
カエルの口蓋には奇妙な隆起やこぶ状の歯があることが以前から知られていましたが、それが何のために存在するのかは分かっていませんでした。
しかし今回の観察結果により、粘着質の舌から獲物を引き剥がす目的があると考えられます。
キーフ氏は「舌に取り付けたビーズマーカーを分析してみると、正確にこの隆起部分に押し当てられていた」と説明しています。
しかも驚くことに、舌の発射から引き戻し、獲物の飲み込みに至る一連のプロセスは、わずか2秒足らずで完遂されていたのです。
現在、世界には約7000種のカエルが知られていますが、その摂食行動は多種多様で、すべて同じメカニズムではありません。
チームは次のステップとして、今回ヒキガエルで確認された摂食行動が例外的なものではなく、他種の陸上カエルでも普遍的に見られるかどうかを比較研究する予定とのことです。