死の淵では「脳のブレーキシステム」が解除されていく
なぜ臨死体験には共通した特徴があるのか?
スピリチュアルな見方をすれば「死にあたって付随する過程(①魂の離脱②行ってきた所業の思い出し③人生の総括)を先行体験している」となるでしょう。
誰もが結局は死に、その過程で臨死体験を経験する可能性があるのだから、そう思いたいくなるかもしれません。
が、脳科学的には異なる解釈が行われます。
これまでの研究により、一部の脳機能は常にブレーキシステムによって抑制されていることがしられています。
脳のブレーキシステムは感情を露骨に表に出すのを防いだり、思考が言葉になるのを防いだり、過去の記憶が思い出されるのを防いで現在の仕事に集中できるようにするなどさまざまな役割を担っています。
しかし脳機能がシャットダウンしていくと、ブレーキシステムが解除されてしまうため、蓄積された幼少期からの記憶や、押さえつけられていた思考が解き放たれ、人の意識の最深部にアクセスできるようになると考えられます。
臨死体験時に人生を振り返るようなユニークな体験をするのも、抑圧されてきた記憶や思考が解放された結果であると言えるでしょう。
(※以前に行われた研究では、脳のブレーキ機能が壊れた男性は、睡眠薬を飲んで脳活動を抑えているときだけ、正常に戻れることが示されています)
このように、ユニークな体験から臨死体験は一見すると魅力的に思えます。
しかし脳のブレーキシステムの崩壊は、脳細胞の機能停止や死によって引き起こされます。
そのため後遺症の影響も大きく、調査対象となった心肺蘇生術を受けた567人の患者のうち、退院できるほど回復したのはわずか10%未満となっていました。
もし臨死体験を進んで起こそうとしている人がいるなら、やめておいたほうが良いでしょう。
では、臨死体験は本当に単なる脳のエラーに過ぎないのでしょうか?
夢をみる機能をはじめ、人間のさまざまな脳機能は進化の過程で必要に迫られて獲得したものであることが知られています。
そのため一部の人々は、臨死体験にも何らかの役割が存在する可能性があると考えているようです。
研究者たちは、心臓が停止した後でも意識が残るのは興味深い疑問であると述べる一方で、人間が臨死体験をするようになった進化的な目的は不明であると述べています。
ただ臨死体験時に脳が発する特徴的な反応を理解することは医学的に価値があり、蘇生術の改良や、蘇生後の心理的影響を改善できる可能性があると結論しています。
もし将来的に、脳のブレーキシステムを安全に解除する技術が開発できれば、誰もが臨死体験をして、人生をより良く過ごすキッカケになるかもしれませんね。