統合失調症では脳の「意味ネットワーク」が崩壊していると判明!
統合失調症は思春期から30歳くらいまでに100人に1人が発症する精神障害であり、患者たちはしばしば、全く異なる概念を結びつける異常な飛躍や一貫性のない思考といった、特徴的な症状がみられます。
スイスの精神科医オイゲン・ブロイラーによって「統合失調症」という用語が造られて以来、このような飛躍や一貫性の欠如がみられる原因は、主に患者たちの脳内で「言葉の意味」の結びつきが崩壊していることが原因と考えられていました。
思考を建築にたとえるならば、言葉はレンガや木材のような建築材料であり、言葉同士の意味の結びつきは、それら材料を結びつけるセメントや釘のような役割を果たします。
一方、統合失調症の患者では言葉の意味の結びつきを担う機能が混乱し、結果として建材が正しく組み上げられない不正な建築、すなわち異常な飛躍や一貫性のない思考が形成されると考えられています。
しかし既存の研究では、統合失調症患者の脳で本当に言葉の結びつきが崩壊しているかどうかを脳活動レベルで証明できていませんでした。
そこで今回、東京医科歯科大学の研究者たちは、MRIを用いて個々の単語の意味に対応する脳活動パターンを記録し、健常者と統合失調症患者の単語同士の意味ネットワークを比較することにしました。
結果、健常者と統合失調症患者の脳内意味ネットワークには明らかに違う点が発見されました。
両者を視覚的に比べた場合、まず最初に気付くのが、健常者に比べて統合失調症の患者では、カテゴリー(同じ色の点)同士のまとまりが非常に強い点になります。
また意味ネットワークの接続を数学的に評価すると、健常者の接続に比べて統合失調症患者の場合は接続密度に関連するクラスター係数が低く、しばしば経路長の短縮がみられるなど無秩序化を起こしていました。
クラスターというとグループ単位で発生したウイルス感染のことをイメージしがちですが、ここで言うクラスター性は、ネットワークの任意の3点を選んだ場合に3角形が構成される割合の高さを意味します。
たとえば上の図の赤い点の集団を比較すると、健常者のネットワークは適当に選んだ3点に容易に3角形を作ることが可能な一方で、統合失調症患者の場合は3角形を作れない組み合わせが多発しています。
ネットワークが完全にランダムな場合、任意に選びだした3点が必ずしも3角形を作ってくれるとは限りません。
ここでいうクラスター性とは、こうしたネットワーク中の意味ある接続や、点と点の接続密度を表現するもので、統合失調症患者の場合はそれが低くなっているのです。
また特性経路長とはネットワークの全ての点のペアが最短で何本の線で結ばれるかの平均となっており、ネットワークの特徴を把握する指数の1つとなっています。
研究者たちは、統合失調症患者はクラスター係数が減少したことで正常な意味ネットワークの形成が妨げられ、経路長が短縮したことは遠い概念を結びつける異常な飛躍につながっていると述べています。
一方、統合失調症の患者は「生き物」や「人工物」といったおおまかな言葉のカテゴリーの区別は高くなっており、完全に混乱しているわけではないことが示されています。
また、研究は統合失調症患者のネットワークの特徴として、スモールワールド性の低下が示されたと報告しています。
スモールワールド性とは世界中から2人を無作為に選択し、その人の友達の友達の友達の友達という感じで、6回ほど友達を経由すると世界のほぼ全ての人をリストアップできるとする理論です。これは「世界が意外と小さい」と感じられることから、「スモールワールド」と名付けられています。
このスモールワールド性は単語同士の意味的なつながりにも適応することが可能であり、意味的に離れている単語(たとえば子供と液体窒素)であっても、間に数回の中継点となる単語を挟むと接続可能となります。
研究者たちが健常者と統合失調症患者の意味ネットワークにおけるスモールワールド性を比較したところ、統合失調症患者のスモールワールド性は有意に低く、ネットワークの包括的なつながりが損なわれていることが示されました。
スモールワールド性が低いということは、特定の意味に繋がるまでの中継点が余計に必要な状態を示しています。
これらのことから研究者たちは、統合失調症患者の脳では意味ネットワークの包括的なつながりの欠如によって効率的な情報伝達が妨げられ、一貫性のない思考や著しい話の脱線などの原因になっている可能性があると述べています。