三葉虫はカブトムシと同じ戦い方をしていた?
三葉虫(学名:Trilobita)は、約5億4200万年前のカンブリア紀〜約2億5100万年前のペルム紀末まで、世界中の海で繁栄した古生物です。
その繁栄ぶりは凄まじいもので、約1500属1万種くらいが存在したと見られています。
形態的には、胴体が3つ(tri)の葉または房状(lobe)の部位から構成されるため、三葉虫(trilobite)と命名されました。
どの種も硬い殻に覆われ、無数の脚が生えていますが、サイズは種によって様々で、大きいものは全長70センチ程、小さいものだと大人でも5ミリ程しかありません。
主に海底を歩き回って、泥の中から栄養分をこし取っていたと見られます。
また、最初に視力を持った生物のひとつでもあり、トンボのような複眼から、かなり高度な視力が発達していたようです。
古生物の中でもトップクラスの繁栄ぶりを誇っていた三葉虫ですが、ペルム紀末に起こった史上最大の絶滅イベント(96%の海洋生物が消滅したとの説も)により姿を消しました。
しかし、ありし日の姿は、余りある無数の化石から窺い知ることができます。
その中で今回、研究チームが焦点を当てたのは「ワリセロプス・トライフルカタス(Walliserops trifurcatus)」という三葉虫です。
デボン紀(約4億1600万〜3億5920万年前)に存在したワリセロプス属(Walliserops)は、トライデント(三叉槍)のような立派なツノを持っていたことが分かっています。
一方で、この三叉ツノの用途は長い間謎のままでした。
そこでチームは、博物館に保管されていたW. トライフルカタスの化石標本をデジタル分析し、ツノがどのように使われていたかを調査。
そのデータを体形とツノの生え方がよく似ているカブトムシの一群と比較しました。
カブトムシのオスは体長の半分ほどもある大きなツノを持ち、交尾シーズンのオス同士の争いで用いられます。
分析の結果、三叉ツノの形状は、カブトムシと同じく、シャベル式に相手をひっくり返すのに非常に適していることが判明しました。
このことから、ワリセロプス属のオスはライバルの懐にツノを潜り込ませてひっくり返し、メスを巡って勝負していた可能性があるようです。
ひっくり返った三葉虫は動けなくなるわけではありませんが、体の構造上、起き上がるのに時間がかかるため、勝ったオスはその間にメスと交尾することができたでしょう。
研究者は、この仮説を完全に証明するにはより多くの物的証拠(たとえば、オス同士が争った傷跡など)が必要だと話しますが、これが断定されれば、メスを巡る性的競争の行動として最古の例になります。
また、もしこの説が正しければ、ワリセロプス属は「性的二形」だった可能性が高いです。
性的二形とは、同種の間でオスとメスの形態が異なることを指します。
カブトムシのツノもその一例でオスにしかありません。他にもクジャクの羽や雄鹿のツノなど当てはまります。
オスにしかない武器を使って、強さや頑丈さをアピールし、意中のメスを射止めるのです。
それゆえ、ワリセロプス属のメスはオスと違ってツノを持たなかったと考えられます。
三葉虫に見られる性的二形の特徴やその役割の発見は、生物が雌雄で機能を分けていった進化の歴史をたどる上で重要な情報となるでしょう。