牛乳のおいしさを保つには「ビン」がベスト?
牛乳を含む生鮮食品は、光に当たることで鮮度や風味が落ちることがよく知られています。
いわゆる「光酸化(こうさんか)」という反応で、紫外線の持つ光エネルギーにより脂質やタンパク質が酸化して、食材の質が落ちてしまうのです。
よって生鮮食品の保存は冷えた暗所が推奨されていますが、一方で、パッケージ(包装)の素材がどのような影響を与えるかについてはまだよく分かっていません。
そこで研究チームは、牛乳の風味と鮮度に与えるパッケージの影響を調べるため、数種類の容器に牛乳を入れて実験。
調査された容器素材は、厚紙製のパック、PET(ポリエチレンテレフタレート)・HDPE(高密度ポリエチレン)・LDPE(低密度ポリエチレン)などのプラスチック製の容器、そしてガラス製のビンです。
容量はすべて約280mLに設定し、これに低温殺菌(77℃で25秒)した牛乳を入れます。
各サンプルは光酸化を防ぐために完全な暗所で保管され、温度は4℃に保たれました。
実験ではまず、人の味覚を使って牛乳の味や風味を評価する「官能評価」を行います。
訓練されたパネル(評価する人をパネルという)が、実験初日・5日後・10日後・15日後に各サンプルを試飲し、官能評価をしました。
これと別に、研究チームは科学的な数値を調べるため、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて、各パッケージからどれだけの揮発性化合物が牛乳に浸透しているかを測定。
そして最後に、実験から10日後に一般の消費者に参加してもらい、各サンプルのブラインドテイスティングを行って、前情報なしで味や風味だけを純粋に評価してもらいました。
それら全てのデータを分析した結果、紙パックと低密度ポリエチレン容器は牛乳の風味や鮮度を落としやすいことが判明しています。
中でも紙パックは、パネルや消費者から「冷蔵庫の中」とか「古臭い」といった評価がなされ、当初あった甘い香りも薄くなっていると評価されました。
それを証明するように、GC/MSでは紙パックからの揮発性化合物の浸透が最も多いことが分かり、全体として、テイスティングにより「異臭が強い」と評価されたサンプルほど、パッケージからの揮発性化合物の混入が多いことが示されています。
ところがこれと対照的に、ガラス製のビンは牛乳の鮮度と風味の保存に最も適していました。
パネルや消費者からの味の評価も高く、GC/MSによる化合物の混入度も低かったのです。
研究主任のメアリー・アン・ドレイク(Mary-Anne Drake)氏は、次のように述べています。
「牛乳は非常にデリケートな食材であり、他の多くの飲料よりもパッケージに関連した異臭の影響を受けやすいのです。
今回の研究で、牛乳の風味は、パッケージの化合物が牛乳の中に混入したり、冷蔵環境にある周囲の食品の匂いを吸収することで強い影響を受けることが分かりました」
特に日本では、紙パックの牛乳がスーパーマーケットでも学校の給食でも広く一般的であり、牛乳の味や鮮度が落ちやすい状況にあります。
冷蔵庫に保存していた紙パック牛乳に、他の食品の匂いがついていると感じることも多々あるのではないでしょうか?
こうした問題は容器をビンに変えることで解決できるかもしれません。
しかし一方で、ガラスの製造には多くのエネルギーと資源を使うため、紙パックやプラスチックよりも環境に悪いと言われています。
また重さや割れやすさの問題もあるため、市販の紙パック牛乳をビンに変えることは難しいでしょう。
ただ、自宅に専用の牛乳ビンを一つ買っておいて、それに移し替えるという工夫なら効果的かもしれません。