「雷の化石」から自然界では極めて珍しい準結晶を発見!
砂糖や塩から金属に至るまで、多くの物質は原子配置が整然とならんだ結晶構造をとることができます。
一方、準結晶はその言葉のとおり「結晶のような」物質です。
準結晶も高い秩序をもっていますが、結晶のように同じ原子配列が繰り返される周期性はありません。
(※上の図を例にとれば結晶では視点を横に移しても同じ四角のパターンが現われ続けします(並進対象性ある)が、準結晶では場所によってパターンが異なります)
これがどの様に特殊なのか説明することは難しいですが、数学で準結晶構造のパターンを考えた場合、高次元の結晶というものを仮定して、その3次元投影をしなければ作れないと言われます。
水晶やビスマス、雪など通常の結晶が自然界の至る所でみられるのに対して準結晶が自然で見つかることは非常に珍しく、自然界では長らく隕石の落下地点が唯一の発見現場となっていました。
そのため科学者たちは、準結晶の生成には極めて高温高圧な環境が必要だと考えるようになりました。
その後、2021年になって核実験場からも準結晶が発見されます。
核実験は自然な条件ではありませんが、この発見により準結晶は天体イベントである隕石落下以外でも生成し得ることが判明しました。
しかし自然界には隕石落下以外にも、雷という強力なエネルギーを持つ現象が存在します。
落雷の平均速度は秒速10万kmと光速の3分の1に達する速度あり、周囲の空気を一瞬にして3万度と太陽表面の5倍に達する温度に加熱し、圧力を一気に高めます。
つまり、雷は局所的ではあるものの、隕石と同じく高温高圧の状態を落下地点に生成することができるのです。
そこで今回、フィレンツェ大学の研究者たちは、米国ネブラスカ州の砂丘に建つ送電線近くで発見された閃電岩を入手し分析を行うことにしました。
閃電岩とは落雷場所の地面が融解してガラス化したものであり、雷が地中を進む経路に沿って植物の根のように生成されます。
ただ今回採取された閃電岩にはもう1つ、上の図のように、内部に溶けた送電線の金属を含んでいるという、興味深い特徴がありました。
このような奇妙な構造になった原因として研究者たちは、閃電岩が形成される前後に、雷などで送電線が切断された可能性があると述べています。
閃電岩の部分が雷による放電か、切れた送電線による放電のどちらで作られたかは不明です。
しかし研究者たちがサンプルを分析したところ、閃電岩と溶けた元送電線の金属の間の領域(遷移領域)から、これまで報告されていなかったマンガン・シリコン・クロム・アルミニウム・ニッケルから成る12角形準結晶が発見されました。
(※興味深いことに核実験によって作られた準結晶も鉱石と銅線の境界部分に形成されています)
また閃電岩部分に含まれる二酸化ケイ素のガラス片を分析したところ、放電中の温度は少なくとも1710℃に達していたことが判明します。
この結果は、ケイ素と特定の金属を含む場所に放電を起こすことで、新たな準結晶が生成されることを示します。
研究者たちは「新たな12角形準結晶が発見されたことで、放電が準結晶の合成方法の1つとして加えられることになった。また研究結果は見落とされていた準結晶生成過程が地球上や宇宙でも存在する可能性を示している」と述べています。
以前に行われた研究では、熱にも強く天然ダイヤモンドに匹敵するビッカース硬度を備えた「準結晶ダイヤモンド」を作成することに成功しています。
準結晶の作成技術は原子の特性を組み合わせたり強化したりなど、これまでにない新しい性質を持った材料の作成に役立つでしょう。
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