中国の洞窟にのみ存在する「角を持つ盲目魚」
研究チームは中国南部・貴州省の標高2276メートルの山岳地帯にて洞窟魚を調査していたところ、この新種に遭遇しました。
シノシクロケイルス属は中国にのみ生息している淡水魚で、1936年に初発見され、これまでに76種が見つかっています。
そのほとんどが洞窟内かその周辺の水場に分布しており、視力は極端に低いか完全な盲目です。
また体には鱗がなく、生皮を剥いだような見た目をしています。
中には光の差す環境で生活し、視力を維持している種もいますが、大半は真っ暗闇にいるため、使わない部位を徐々に失っていく「退行進化」を起こしています。
今回の新種は、洞窟の入り口から約25メートルの場所にある小さな水場(幅1.8メートル・深さ0.8メートル)で発見されました。
採取時の水温は16℃前後で、洞窟内部にはまったく光がなかったとのこと。
見つかった個体の体長は10.5〜14.6センチで、口先に2対のヒゲ状器官を持っていました。
これは暗闇の中で自分の位置や障害物を検出するのに使われています。
目もほとんど退化しており、視力はないと見られます。
その中で最も注目すべき特徴は、頭部から長く伸びた角のような突起物でした。
チームはこの特徴から、本種を「シノシクロケイルス・ロンギコルヌス(Sinocyclocheilus longicornus)」と命名しています。
ロンギコルヌスとは、ラテン語で「長い(longus)」と「額の角(cornu)」を合わせた言葉です。
一方で、頭部に角を持つシノシクロケイルス種はわずかながら前例があるため、一目で新種とは断定できませんでした。
それが分かったのは、持ち帰った標本のDNAを分析したときです。
DNAデータを既知種と比較した結果、未記載の新種であることが特定されました。
しかし、彼らの角が一体どういう目的で使われているのかはよく分かっていません。
明るい場所に分布するシノシクロケイルスには角がないので、おそらく暗闇で生きることと関係しているようですが、暗所での位置確認は2対のヒゲで十分に間に合っています。
魚類として他に検出する必要があるものといえば、水の温度や水流、水圧、水中の化学物質の変化などです。
ただ、こうした環境変化の検出は魚類の体側にまっすぐ走る「側線(そくせん)」という高感度細胞から成る器官が担っており、シノシクロケイルスにも存在します。
よって、角がそれらを検出する必要もありません。
角の用途はまだ判然としていませんが、暗闇に生息するシノシクロケイルスにしか存在しないため、やはり暗闇ならではの使い方があるのでしょう。