ヨコバイは「超推進力」を発揮する初の生物!
研究主任のサアド・バムラ(Saad Bhamla)氏はある日、自宅の裏庭にいたヨコバイが見たこともない排尿をしているのに気付きました。
ヨコバイは体長数ミリ〜1.2センチ程の小さな虫で、農作物に病気を広げる悪名高い害虫としても有名です。
身の危険を感じると横にずれるようにすばやく移動することから、「ヨコバイ(横這い)」という和名が付けられました。
バムラ氏は、ヨコバイがお尻にほぼ完全な丸い液滴を作り出し、それを目にも止まらぬスピードで発射する姿を目撃したといいます。
しかもヨコバイはその行動を数時間にわたって何度も何度も繰り返したのです。
氏は「自分が見たものは些細なことではない」と直感し、ヨコバイの排尿メカニズムを詳しく調べることにしました。
チームはまず、ハイスピードカメラと顕微鏡を使って、ヨコバイのお尻で何が起こっているかをつぶさに観察。
すると、チームが「肛門スタイラス(anal stylus)」と呼ぶ、お尻の針状の突起(針状器官)が重要な役割を果たしていることが分かりました。
ヨコバイが排尿の体勢に入ると、ニュートラルな位置にあった針状器官が上方に開いてスペースを作り、オシッコの液滴を丸く絞り出します。
液滴は徐々に大きな球体になり、最適な直径に達すると、針状器官がさらに15度ほど後方に開いて、カタパルトのように液滴を押し出して発射するのです。
こちらが、ヨコバイの排尿の瞬間をハイスピードカメラで捉えた映像。
同チームのエリオ・チャリタ(Elio Challita)氏は「私たちはヨコバイがカタパルトのような機構を進化させ、高い加速度で繰り返しオシッコの液滴を飛ばせることを特定しました」と話します。
次にチームは、針状器官(発射部)とオシッコの液滴(発射体)の速度を計測し、液滴のスピードは押し出す針状器官の動きより1.4倍も速くなっていることを突き止めました。
具体的には針状器官の動きが毎秒0.23メートルだったのに対し、オシッコの弾丸は最大で毎秒0.32メートルに達したという。
このように、発射部の動きよりも発射体のスピードの方が速くなる現象を「超推進力(superpropulsion)」といいます。
超推進力はこれまで、人工的な機械システムでのみ確認されていたもので、自然界では初の事例です。
さらに観察を進めたところ、針状器官はオシッコを圧縮して、発射直前に液滴の表面張力によるエネルギーを蓄積していることが判明しました。
そして、液滴と針状器官の振動の周波数が同調したタイミングでオシッコの弾丸を発射しており、これにより超高速での発射が可能になっていたのです。
しかし、ヨコバイはたかがオシッコをするためだけに、なぜここまで高度なメカニズムを発達させたのでしょうか?