「上方への動き」を「生物」と認識している?
私たちは日常生活の中で生き物に出くわすと、自然と注意が向くようになっています。
たとえば、散歩中の犬や空を飛びまわる小鳥、川を泳ぐ魚など、意識せずとも目で追ってしまうことがあるでしょう。
これはあらゆる動物に見られる習性であり、研究主任のエリザベッタ・ヴェルサーチ(Elisabetta Versace)氏は「生まれたばかりの赤ちゃんやヒナでさえ、まだ動物を見たことがないにも関わらず、生き物の動きに自発的に惹きつけられる」と話します。
つまり、生き物に注意を向ける能力は多くの動物に先天的に備わっている可能性があるのです。
では具体的に、どういう動きの特徴に注意が引かれるのでしょうか?
それを調べるために研究チームは、重力に従う「無生物」に特有の下方への動きと、重力に逆らう「生物」に特有の上方への動きを孵化したばかりのヒナに見せる実験を行いました。
こちらでは、木登りするリスを「上方への動き」、倒木する巨樹を「下方への動き」として例に挙げています。
実験ではまず、セキショクヤケイ(学名:Gallus gallus)のヒナを卵から孵したあと、完全な暗闇の中で1日だけ置いて何も見せない状態にしました。
そして羽も乾き目も開いて歩けるようになると、特設の実験セットの中に入れます。
こちらが上から見た実験セットの様子です。
セットの両側にはスクリーンが備え付けられており、右側では「上昇するボール」を、左側では「落下するボール」をループ再生します。
ヒナはセットの中央エリアに置かれ、右側に行けば「上方への動き」に、左側に行けば「下方への動き」に注意を引かれたことになります。
当然ながら、これらはヒナが生まれて初めて見る「動くもの」です。
そして計55羽のヒナで実験し、その動きを追跡した結果、多くのヒナが「上方への動き」に引き寄せられることが判明しました。
実験は1羽につき5分間を連続して4回(計20分間)行いましたが、ヒナの多くは上昇するボールをより多くの時間をかけて観察し続けたといいます。
つまり、ヒナは視覚的経験がなく、「無生物は重力に従って落下し、生物は重力に逆らって上方に動ける」ということを知らないにも関わらず、上方への動きに強く注意を向けたのです。
「この行動は、重力に逆らって動くものに対する生得的な注意力を示すだけでなく、ヒナが重力の仕組みを意識的か無意識的かに関わらず、ある程度理解していることを示唆している」と同チームのエリザ・ラファエラ・フェレ(Elisa Raffaella Ferrè)氏は指摘します。
しかし「ヒナが重力に逆らう上方への動きにより注意を向ける理由が、生き物の動きと一致するからだ」とはまだ断定できません。
研究主任のヴェルサーチ氏も、今回の実験ではヒナが上方への動きに引かれる確率が高かったことを示しただけであり、生物との関連性を証明するには更なる調査が必要と話しています。
それでも、重力に逆らう動きは自然界においては常に生物を連想させます。
上空に向かって跳ねたり飛んだり、木々や岩を登ったりするのは生き物だけです。
命なき無生物は、枯れ葉が落ちたり、雨が降ったりと、重力に逆らって上昇することはほぼありません。
ヒナが上方への動きを見て「あ、これがお母さんかもしれない」と認識しているかどうかは不明ですが、母鳥が跳ねたり、飛び上がったり、あるいは首を上げ下げする動きをヒントにしている可能性は大いにあり得るでしょう。