「飛行機雲」のようなブラックホールの軌跡では新しい星々が誕生している
最後に、今回の発見のきっかけとなったブラックホールの光り輝く軌跡がなんなのかについて考えてみましょう。
まっさきに考えられる仮説は、この光の筋がブラックホールから放出される「宇宙ジェット」であるというものです。
ブラックホールは重力で巻き込んだ物質を極方向に向けて光速に近い速度で遥か彼方まで吹き飛ばすジェットを吹き出すことがあります。
これは遠方からでも観測できるようなガスの軌跡を生み出します。
しかし、仮にこの光の筋が宇宙ジェットなのであれば、ブラックホールから離れるにつれてその形状は扇状に広がっていくと予想されます。
ところが今回の光の筋はブラックホールからまっすぐ伸びており、宇宙ジェットとは考えられません。
その軌跡はまるで宇宙にできた飛行機雲のように見えます。
飛行機雲の軌跡は、燃料から排出された水蒸気が高高度の大気に触れて急速に水滴や氷の粒に変わることで生まれます。
では超大質量ブラックホールも移動した後に何かを作り出しているのでしょうか?
研究チームがこの軌跡を調査したところ、なんとこの領域では次々と新しい星が形成されていることがわかりました。
そのため彼らは、この軌跡を「星の軌跡」と呼んでいます。なんと超大質量ブラックホールが移動して作った軌跡は、新しく生まれる星々の輝きだったのです。
なぜ高速移動するブラックホールの後ろには、新たな星が形成されるのでしょうか?
一般的に星は、超新星爆発の衝撃波や星間雲同士の衝突をきっかけに、星間雲が引力で収縮することで誕生します。
今回研究チームは、ブラックホールが衝撃波を伴って高速移動し、銀河周辺のガスを圧縮することで、その軌跡に星が誕生するようになったと考えています。
これらの仮説を証明するには、より詳細な観測が必要となるでしょう。
チームは次のステップとして、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やチャンドラX線観測衛星での追加観測を行いたいと考えています。
更なる調査は必要ですが、今回の発見は、そらを見上げる私たちに大きな感動を与えてくれました。
真っ青な大空に引かれた白い飛行機雲には美しさを感じるものです。
漆黒の大宇宙に引かれた「ブラックホールの飛行機雲」はそれ以上に美しいものであり、その軌跡は、星々の誕生によってキラキラと輝いています。
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。