短頭種の起源はどのイヌにある?
では、紀元前600年頃に中国にいたパグの祖先はどこにあるのかというと、それは約4000年前の大型の短頭種である「マスティフ」にあります。
特に、中国チベット高原を原産地とするチベタン・マスティフが祖先とされ、本種は数あるマスティフ種を生み出した原種の一つとされています。
このチベタン・マスティフが徐々に小型化し、中国に渡って愛玩犬として可愛がられたのがパグです。
他方で、マスティフの一種は古代ローマ時代に軍用犬や闘犬として活躍していた可能性も指摘されています。
トルコ遺跡で見つかったイヌの頭蓋骨はおそらく、このマスティフから繁殖させたものである可能性があります。
その後、マスティフはイギリスに渡り、先にも述べた通り雄牛(ブル)と闘わせるために改良されて「ブルドッグ」が誕生しました。
鼻先が短いので、その分噛みつく力が強くなり、闘いに有利だったのです。
杭につながれた雄牛に数頭のブルドッグを放つ「ブルベイティング(Bull Baiting=牛いじめ)」は、13〜19世紀のイギリスで見せ物として人気を博し、牛を倒したブルドッグの飼い主には賞金が支払われました。
しかし1835年頃に「残酷すぎる」という理由で禁止され、職を失ったブルドッグたちはショードッグとしてあちこちを旅するようになります。
そしてイギリスの織物職人が一緒にフランスに連れていったブルドッグが元となり、パグやテリアと交配して「フレンチブルドッグ」が誕生しました。
このフレンチブルドッグは、今回報告されたローマ時代のトルコの遺跡で見つかったイヌの特徴に最も近い犬種です。
短頭種には大きなデメリットがある
クシャッとした顔が愛らしい短頭種は現在、ペットとして非常に人気ですが、実はデメリットもあります。
それは鼻が短くなったことで呼吸器のトラブルが起きやすくなったことです。
イヌとして持つべき鼻の機能や構造を狭い空間に押し込まなければならないので、正常な呼吸が妨げられたり、イビキをかきやすくなったり、睡眠時に無呼吸を起こしやすくなりました。
それから酸素が不足して歯茎や舌が青くなったり、激しい運動で失神したり、呼吸がしづらいせいで暑熱への耐性も低く、熱中症になりやすいのです。
こうした問題を受けて、近年では短頭種を他の犬種と交配させ、呼吸のしやすい形態に変化させようという動きが世界的に広まっています。
今回の報告で、ローマ時代から確認される犬種であることが判明したとはいえ、現代の彼らは人間の娯楽のためにかなり苦労を背負う種族となってしまっています。
もしかしたら将来的に「平たい顔のイヌ」はいなくなるかもしれませんが、それも彼らの健康を思えばそれもやむなしでしょう。