雪印メグミルクから「快眠ヨーグルト」が作れるかも?
睡眠不足やその蓄積である睡眠負債は、日常生活や仕事のパフォーマンス低下、脳の働きの低下、糖尿病などの生活習慣病のリスクの増加など、心身に多大な悪影響を及ぼすことが知られています。
特に日本人の睡眠時間は世界に比べて短い傾向にあり、社会的にも懸念すべき健康問題の一つです。
日本の睡眠不足による経済損失は、GDP(国内総生産)の1.86~2.92%に相当するとの試算結果もあります。
そんな中、名古屋大学と雪印メグミルクは2017年に、睡眠をはじめとする「脳や神経」に関する健康課題を解決するための共同研究を開始しました。
研究対象としては主に、ヒトと数多くの行動や分子メカニズムが共通しているショウジョウバエを用いています。
ショウジョウバエの行動は単純なシステムで制御されているため、薬が治療効果を及ぼす仕組みなどの詳細な研究が可能です。
ショウジョウバエとヒトでは見た目もサイズも全く違いますが、全遺伝子の約60%は互いに共通する機能を持つことが分かっています。
そして研究チームはこれまでに、雪印メグミルク保有の乳酸菌株SBT2227を餌として与えることで夜間の睡眠を促進することを見出していました。
さらにチームは今回、ヒトや食品などから分離された39種類の乳酸菌およびビフィズス菌をショウジョウバエに与えて、高い睡眠促進作用を持つ菌株がないかどうかを新たに調査。
その結果、ビフィズス菌の一種である「ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)」の菌株SBT2786において、乳酸菌株SBT2227よりも効果の大きい睡眠作用が見つかったのです。
B. アドレセンティスは、ヒト成人の腸管に生存するビフィズス菌の優勢種の一つとして知られます。
また同じB. アドレセンティスに属するにも関わらず、菌株SBT003などは睡眠促進の効果が弱かったとのことです。
一方の菌株SBT2786は、調査した39種の中でも最も強い睡眠促進の効果を持っていました。
加えて、SBT2786は加熱・殺菌を行った後でも睡眠促進作用を維持しており、食品やサプリメントとしての加工に非常に向いていると考えられます。
さらに、その効果の一部はインスリン経路を介したものである可能性が示されました。
このインスリン経路は私たちヒトを含む哺乳類にも共通して存在しています。
このことは、SBT2786が哺乳類に対しても睡眠を促進する可能性を示唆するものです。
それと同時に、SBT2786の睡眠促進作用についてより詳しく調べることで、インスリン経路と睡眠がどんな関係性を持つのかを理解できると思われます。
SBT2786は雪印メグミルクが保有している菌株ですから、今後マウスやヒトでの臨床試験にクリアすれば、すぐにも快眠をサポートするヨーグルトやサプリメントが作られるかもしれません。